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痛みと嘆きの塔
5

 ある夏の朝、空はいつものように優しい青。蝉時雨の声と爽やかな優しい風がカーテンを揺らし窓から流れ込む。

突如感じた違和に、兄が眼を覚ますと、隣に眠る弟が苦しげに呻いてた。重い目を擦りどうした、と声を掛けようとし、兄は息を飲んだ。

驚いて飛び起きるとベッドには夥しい量の血。手で口元を押さえる弟。尋常でない量の血を溢れさせ弟は何度も咽びこむ。

口の端から零れ落ちる血は止まる様子を見せず、兄は慌てて背中を擦り何とかして咳を止めようと試みるが、咳は治まる気配を見せない。

ぎしぎしと音を立て、自分よりも一回り以上も小さい体が軋んでいるのを、兄は唯必死になって弟の体を抱いている事しか出来ない。





 しばらくの間、弟は激しく咳き込んでいたが、突如その咳がピタリと治まり、糸が千切れる様にして血のついたベッドに音を立てて倒れこんだ。

突然の出来事に、兄は呆然と立ち尽くし、自分にも付着した血を見た。ベッドも床も赤く濡らすこれは……。

倒れた弟を見遣る。顎には吐き出した血が薄く固まってきている。出血も止まり苦しんでいる様子はないが、顔面の血の気は引き、自分の吐いた血の海の中で堕ちたように眠る弟があまりに痛ましかった。



 それを境に弟は昼夜を問わず、酷い時には1時間毎に何度も何度も発作的に出血を繰り返すようになった。

いつも突然咳き込み始め血を流し、何の兆候もなく止まる。共通する事と言えば、発作の終わりには必ず意識を失う事。

こんな事初めてだった。今まで風邪等のど小さな病気は何度かあったが、特に大事には至らず健康に暮らしてきた。

原因は判らない。それでも、今の弟の健康状態があまり芳しくないという事は誰の目、勿論兄の目にも明らかだった。



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