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痛みと嘆きの塔
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 今日も二人は共に森を翔ける。遊びたい盛りの弟は、兄の手伝いが無い時にはいつも、元気に森の中を走り回っていた。鳥と歌い、獣と戯れ、その大地を謳歌した。

兄は食事に備え、獣を狩り、木の実を集め、暇が出来れば弟と遊び、掃除や洗濯などの家事もこなした。

そんな兄弟二人の胸元から時折ちらりと見えるもの。それは、首から下げた揃いのペンダント。素材は銀、とても細かな装飾が施されており、中央には獣の姿といくつかの文字が刻まれている。

いつからか持っており、いつも肌身離さず身に付けているそれは素人目にも高価だと分かる代物。

それを見た旅の商人達はいつも目の色を変え、これを金に換えないか、としきりに促した。

商人が提示した金額は兄弟二人が森を離れ、町で暮らしていくのに十分なものだった。

確かに、それだけの金があれば、いつも苦労させている兄を楽に出来るかも知れない。

幼い弟はそう考えたが兄は断固として商人の申し出を受け入れなかった。

「これは、俺達兄弟を繋ぐたった1つの絆だ。金で売る事は出来ない。」

兄はペンダントと弟の手をしっかりと握りしめ商人に言った。幼い弟が見上げたその横顔には凛とした決意があった。

弟は金で物事を解決しようと考えた自分の浅はかさを恥じながらも、そう言った兄の言葉がとても誇らしく嬉しく思った。



 食料を得るために大地を翔け、川を渡り、山を巡る。火を熾し、水を汲み、風を待ち、大地に根ざし生きる、自給自足の生活。

共に暖かな食事を囲み、風呂に入り戯れ、明日を夢見て眠る。

2人ならば、夜を狩る獣も、傷だらけの手も、凍えるような孤独も、何も怖くはなかった。

他愛の無い事で笑いあいたまには喧嘩をし、そしてまた共に支え合い生きている事。




――例え裕福でなくとも幸せだった。





今日もまたあの山の向こうに夕日が沈んで行く。

いつまでも、いつまでもあの空は青くまた赤く、兄弟達はこんな日々が永遠に続いて行くのだと、信じて疑わなかった。



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あきゅろす。
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