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痛みと嘆きの塔
3

 物心ついた時には既に彼らには父も母も居なかった。二人とも死んだのか、あるいは捨てられたのか。

……どちらでも構わなかった。いずれにせよ、ここに両親が居ない、という事実に変わりはないのだから。

数え年で兄は15、弟は9歳。

兄は赤い髪をふわりと靡かせ穏やかに微笑み、弟はくりくりとした青い目を瞬かせ、兄に抱きついた。

容姿はあまり似ておらず年も離れてはいたが、弟は兄をよく慕っていた。

そんな弟を、兄もとても可愛がり、共に手を取り肩を寄せ合い、支え合って暮らしていた。

2人に襲いかかる現実は厳しい。森での生活は決して楽ではない。

庇護を求める相手はいない。明日の食料もままならない。全てを、自分達の手で行わなければならなかった。

それでもこの辛い毎日を生きていけるのは、互いの存在があったからだ。

弟は、知らないだろう。弟の笑顔がどれだけ兄の救いになったのかを。

辛い時も、苦しい時も、いつも笑顔で傍にいてくれた弟。挫けそうな時も諦めそうな時も、兄はその小さな笑顔を守る為に、生きようと思う事が出来た。

そして、兄もまた知らないだろう。兄の存在が、どれだけ弟を助けてきたかを。

いつも頼りになり、困難にはいつも手を差し伸べてくれる兄。自分を導く大きな兄の背をいつもを追いかけていた。優しく強く、時に厳しい兄が大好きだった。






 彼らの住まう人里離れた森の奥でも極まれに、人が訪れる事がある。それは旅人であったり商人であったり様々だが。

山を越える人々の為に、兄弟は粗末ながらも宿と飯を提供し、その礼として旅人は様々な事を兄弟に語った。

彼らの住んでいた土地の事、彼らのこれから向かう土地の事、この世界の歴史や昔話。嘗てこの森はある国の支配下にあったのだと旅人は告げた。

各地を巡る旅人の話はとても興味深く、弟はいつも月が天に昇る頃には寝てしまっていたが、兄はこの森を抜けたまだ見ぬ世界や、嘗てこの地を治めていた国に幾度もその思いを馳せた。



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