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痛みと嘆きの塔
17

 あの惨劇から1年経った日、青年はあの高台を訪れた。そこには、森を臨むようにして作られた、小さな木の墓標。

――自分と間違えて埋められた男が眠る場所。

 青年は、そっと花を手向ける。白い花は風に惑い、ゆらゆらと揺れた。そして、その足で青年は塔へと向かった。



 1年前と何ら変わらない。時の変化に取り残された様に、その塔は静かに佇んでおり、最上階には、本と散らばる白骨に囲まれる、あの時と寸分違わぬ姿の悪魔が居た。

悪魔は契約通り、弟の砂時計を修復し兄の砂の半分を弟に与えたと告げた。青年の唯一つの気掛かりがやっと安堵に変わり自然と顔が綻ぶ。

あの日青年は弟の命を助ける為に、他人の命、そして自分が幸せになる権利も悪魔に代償として支払った。

あの時下した決断は、決して間違っていないのだと、青年は何度も何度も自分に言い聞かせた。




「独りでこの塔に封印され寂しくはないのか?」

 ふと、青年は呟いた。悪魔は相変わらずたくさんの書物と骨に囲まれ、読書に耽っている。独り言にも似た青年の呟きに興味を示し、悪魔は顔をあげた。

「……ナゼ?」

悪魔は心底不思議そうな様子で青年に訊ね返した。青年はそれこそ、その問を不思議に思ったが、悪魔には人のような負の感情はない、あるのは愉悦だけだという言葉を聞き、妙に納得した。

悪魔は興味深そうに、寂しいという感情はどういうものなのかと、青年に問うたが、青年は口を噤んだ。

なぜなら、悪魔を納得させられる程に十分な説明が出来るとは到底思えなかったし、第一、人を殺した自分には最早『人の心』について語る資格など無いのだから。

悪魔は、青年が自分が求めた答えを語りえない事を悟ると、また目線を本へと落とした。



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