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雪のち、愛



「さっ…む!」


深夜四時。
車から降りると冷えきった空気が体に突き刺さる。




「早くしろよ、さみい」
「はい、はい」

人の良さそうな顔のタクシーの運転手に一礼すると、彼は愛想よく笑ってみせてから、来た方角へと帰って行った。



「本当にさむいな」
「やべーよこの寒さ。お前今日帰ってたら死んでるな」
「さすがに死にゃーしないでしょ……あ」
「ん?」
「上」


はらはらと氷の粒が落ちてくる。
真っ暗な空にそれはきれいに映えていて、一目で雪だと分かった。



「どおりで冷える訳だよな」
「だな」
「…あ」
「ん」
「…あん時も、」

「雪、が降ってた」


あん時、がいつのことかは聞かなくてもわかった。
若林が今更目を細めて眉をしかめたことに意味は無いかもしれないが、それは彼が五年前大失恋をして過呼吸に陥ったときに間違いはない。

冬の、かなり寒い日だった。
電話口での苦しそうな彼の声はいまだに脳裏に焼き付いている。

嗚咽混じりの、助けを求める言葉。







「……さみい」
「家入る?」
「………さみい」
「…だから家」
「…さみーんだよ」
「……………」
「……………」
「………若林」


数秒遅れて、理解。
センチメンタルになったのか、
いくら深夜といえど外で若林からスキンシップを求めることは珍しく、やっと出た言葉は消え入りそうに小さかった。
返事を待たずしてダウンジャケットを纏った若林を力任せに抱き締める。



「……遅ぇよ」
「ごめん」
「…やっぱお前あったけーな」
「可愛いこと言ってくれるね」
「言ってろ」
「なあ若林」
「…うん?」
「好きだぞ」
「……うん」
「ずっと、ずっと好きだ」
「……わかった」
「うん」
「俺も」
「…うん」
「も、お前だけでいい、から」




途切れ途切れなのは恥ずかしかったからか寒さからか、
抱き締める力をさらに強くした。



「……していい?」
「…写真撮られても知らねえからな」
「いいじゃん、これを機に全国に知ってもらえば」
「は、お前ほんとば…」


遮るように唇を押し付けた。
若林の冷えきった唇が気持ちよくて、うっかり舌を入れたらジャンバー越しでもわかるぐらい強めのパンチが胸に入った。


「ううう、加減して…」
「こっちのセリフだわ!」
「そんなこと言って、体は嫌がってなかったけど…?」
「頭に雪積もらせながらなに言ってんだ。ほら帰んぞ」



すたすたと歩き出した若林に
続きはあったかいお風呂でね、と言ったら意外にも寒さで赤くなった頬をさらに赤くして、うん、と頷いた。





寒さを言い訳に、今日はいつもよりもたくさん抱き締めてたくさん好きと言おう。

可愛いすぎる恋人の、冷たい手を握って心に誓った。








雪のち、愛
(心も体も暖めてあげよう)





――――――――――――

雪が降ったから書きたくなって書いてみました。
過呼吸話が冬かは微妙です^^

ラジオ帰りという裏設定あったりします(どうでも良)



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