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硝子に罅が入る時刻。



 現在の時刻は素敵に不敵(?)な午前二時五十四分。ほぼ三時。

 娯楽室で中途半端に寝てしまっただけでなく、馬鹿なクインテットの所為で余計な労力を使ったからそろそろ脳味噌がパー子になってきております。

 今日は体育があった気がするけど…この脳味噌と身体を引きずってサッカーをするのはちょっと……。

 ちなみに一時間半近く経った今でも、目を覚ました奴はいない。

 ……気絶したまま睡眠に移行されました?

 え、もう一回ぶん殴ってもいいかな、マジで。





神様は悪戯に夜を照らし 20





「せ、先輩……?」

 ――俺が室内や衣服からブツを探し出し、忌まわしいデータを全て八城が消す――

 そんな地道な作業を見事な連携プレーで終わらせ、五人全員の携帯でオチてる様を順々に撮影していると、八城に困惑気味な声で呼ばれた。

 睡眠不足からくるハイテンションは無意味に笑顔を作るんだなあ、なんて変なところで感心しながらにこやかに返事をする。

「はい?」

「何を‥してるん、です、か…?」

 八城は、そんな俺(+携帯)とモデルになっている男たちを交互に見て、途切れ途切れにそう言った。

 不思議そうな目で俺を見上げているが、きっと何となくはわかってるんだろう。

 『目には目を、歯には歯を』っていうイディオムは、子供だって知ってるし。

 誰かを辱めようとするのなら、自らが辱めを受ける覚悟で臨まなければいけない。

「こうして彼らの携帯に写真を残しておけば、あまり下手な行動はとれないでしょう?」

 これは一種の脅しだ。

 何か馬鹿なことを仕出かせば、お前たちのオチている恰好悪い写真をバラまくぞ、という。

 別に気絶してる写真くらい…と思う人もいるだろうけど、こういう奴らはプライドが高いから絶対にそんな醜態は晒せない。

 手足を縛られているから寝ているだけだと誤魔化すことも出来ない。

 だから当分は脅迫して強姦なんてふざけた真似しないはずだ。

 まあ、弱みを握られたままでいることに我慢出来るとは思えないから、俺を探すだろうけど。

 兎にも角にも、五人の携帯の待ち受けを今撮ったばかりの写真にチェンジ。

 データの中だけで気付かれなかったら意味ないし。

「……いつもこうしてるんですか?」

「え…?」

 自分のとは違う機種の操作に少々戸惑いながらも一つ一つ変更していた俺は、ふいに投げかけられた疑問に手をとめた。

 今の問いは「えげつないことするんですね」という非難を含むものじゃなくて、「そうなんですか?」みたいな、純粋な疑問だった。

 誰でも前者より後者の方がいいと思う。

 でも、今の俺としては、前者の方がありがたい。

 なんていうか、そのニュアンスで八城が変な勘違いをしているらしいということに、気付いてしまったから。

 質問の真意を測りかねていると、俺の困惑が伝わったのか、八城は驚いたように口を開いた。

「あの、先輩は……風紀委員‥じゃないんですか…?」

「風紀委員…?」

 風紀委員って言うと、アレだよな。

 登校時間に校門のところで待ち構えて生徒の身だしなみをチェックする、っていう。

 俺のいた高校は専ら生徒指導の先生(熱血体育教師)がやってて、顧問の影は薄いし風紀委員の生徒は書類関係だけやってたんだけど。

 衣替え期間は服装チェックがあって面倒くさいってこぼしたら、私立に進学した奴に「衣替えの時期だけ? 俺んとこ毎日なんだけど!?」って盛大に嘆かれたんだよなあ…。

 って、そんなことはどうでもいい。

 ここは超お金持ちのお坊ったま方が通う、超お金持ちの私立校。

 俺が通っていた公立とも、普通の私立とも違う。

 この学園において風紀委員とは、生徒たちの頂点に君臨する王族だ。

 厳密に言えば生徒会が頂点で、その下に風紀委員会と評議委員会があるわけだが、特権階級であることに違いはない。

 編入生の俺はともかく、持ち上がり組の生徒なら顔と名前どころかクラスまでも把握している特別な存在。

 それなのに、この庶民代表のような俺が勘違いされるとは…。

 どんな理由で俺が風紀委員だと思われていたのか、激しく疑問だ。

「俺は風紀委員ではありませんが…。差し支えなければ、そう思っていた理由を教えて頂けますか?」

 確かに風紀委員は読んで字の如く『風紀』を整えるのが仕事なんだから、強姦されそうになった生徒を助けてもなんら不思議はない。

 普通の学校なら責務になるはずもないが、性行為の乱れたこの男子校にとっては、むしろ服装や頭髪のチェックより必要で重要な仕事なんだろうと思う。

 けれど、俺は二週間程前に編入してきたばかりの庶民で、十一人しか選ばれない、お貴族様の中のお貴族様である王族に間違われるなんてありえない。

 だから持ち上がり組の八城がそう思ったのなら、それなりの理由があるはずだ。

 果てしなく嫌な予感を抱きながらも訊かないわけにはいかず、仕事についても控え目に質問すると、八城は言葉を選びながら説明してくれた。

「ええと、…風紀委員の主な仕事は、空き教室の管理と、喧嘩をとめること、強姦を防ぐこと、被害者と加害者への対処で…。俺は実際見たことないんですけど、先輩、慣れてる感じだったし、俺を、その‥襲われてたのに、嫌な目で見ないので……」

 恐らく慣れているというのは、男たちをあっという間にオトしたことではなく、その手足をベルトとキッチンのラップで縛ったことを指しているんだろう。

 何の躊躇いも罪悪感もなく、皮膚に食い込ませながら淡々と縛り上げていく姿は、確かに仕事をこなしているように見えてもおかしくはない。

 しかも他人の持ち物を平然とあさり、データの消去が終わったと思ったら公開処刑用(勿論未定である)の写真を撮り始め……。

 自分で言うのもなんだが、人助けをしたとはいえ、誰よりも犯罪者に近いのは俺のような気がする。

 でも、八城のことを嫌な目――お前が誘ったんだろうとか、誑かしたんだろう、って目で見ないのは当然だ。

 痴漢を含め性的な事件が起こった際には被害者にも少なからず非難の目が向けられるが、欲望に負けて理性を無くし、襲った方が悪いに決まっている。

 勿論自衛はすべきだが、襲われて傷ついている人間に向かってお前が悪いなんて、そんなこと言っていいはずがない。





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