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禽が憩う場所。05

イクチヨモ、カナシキヒトヲ。


 約束の五分前には着くように部屋を出る。
 ガラスが多く使われ開放的な造りになっている食堂は、中に入らなくても近付くだけで利用状況がわかり、多くの生徒を目に映した俺はあちゃー、と小さく呻いた。

 寮内だけでなく世間一般でも昼食時である十二時だから、混雑するのはわかってた。
 普通に考えて一番混む時間帯だ。
 でも、予想より少し、ではなく、予想より大分、多いんだけど……何でだ。
 俺が在籍してた頃より入寮者数が多いのか?

 学園としては半寮制で、強制的に入寮させられるのは全国区の部活動に所属する生徒だけ。
 実績に乏しい部活動や帰宅部を選ぶ者は入寮するか通学するかを自由に選べる。
 交通の便がいいから近隣なら他県からでも通えるし、最寄駅からはスクールバスで五分だし、昔はそんなに希望者いなかった気がするんだけどな。
 口煩い親から離れて自由に過ごしたい、って若者が増えたのかねえ……。

 永遠の別れがいつくるかなんて、誰にもわかりゃしないのに。


「あっ、カナ先生! こっちです!!」

 これ席あんのかな。
 騒がしい奴らと同じテーブルでは食べたくないんだけど。

 ため息をつきながらガラス戸を押し開けると、二人の姿を探す前に聞き覚えのある大きな声が俺を呼んだ。
 四名席を確保した大塚先生が笑顔でブンブンと手を振り、隣にいる卯月が必要以上に目立つことをするなと言いたげな目で不快感を表している。
 …うん。気持ちはよくわかるけど。注目を浴びてる原因の半分以上は、お前だよ。
 座ってるだけのお前の方がめっちゃ見られてるから。

「大塚先生、お疲れ様です。お待たせしてすみません」
「いえっ、全然! 俺も今来たところですからっ!」

 別れる前と少しも変わらない元気全開の姿は、部活を終えたばかりには思えない。
 むしろこれから部活です、みたいな。
 疲れるのは練習する部員であって、指示を出すのがメインの顧問はそんなに疲れないんだろうけど。
 この人なら部員と同じように、いやそれ以上に動き回ってる気がする。

 大塚先生のジャージと二人分の飲み物があれば、席使用中のアピールは十分だろう。
 さっ、行きましょう!、と促されてカウンターへ足を向ければ、傍に寄って来た卯月が心配そうに顔を曇らせた。

「カナさん、移動でお疲れじゃないですか? 大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。移動って言っても、殆ど歩いてないし」

 アメリカから日本へは超快適なファーストクラス。数日の休息を挟んだのち、家から学園まではゆとりのリムジン。
 好意に甘えまくったから窮屈な思いをすることもなく、身体に嫌な疲労が溜まることもなく。
 学園内で歩いた距離も短いんだから、全くと言っていいほど疲れはない。

 少しばかり久美子さんと藪下には精神的疲労を与えられて、意外なものが目に入ったりもしたけど―――それは、心配してもらうようなことじゃない。
 一時間ちょっと休んだし。卯月には関係ないことだ。

 でも、卯月可愛いし。純粋に気遣ってくれたわけだし。
 ありがとな、と近くにある卯月の頭をぐしゃぐしゃ撫でたら、白い頬が薄っすら染まって、周囲がちょっとざわめいた。
 あー…、卯月は何もしなくても見られてるんだってこと、忘れてた。
 元々超美人で狙ってる奴が多いだろうに、俺の所為で可愛いところを見られて更に狙う奴が増えたら、それはちょっと申し訳ないな。

「?! かっ、カナさん…っ」
「…………」

 と、思ってはみたものの。
 一々外野を気にして卯月に関わるのは面倒くさいし、なんか俺が気を付けても卯月が可愛いって事実は隠せそうにないし。
 考えるだけ無駄じゃねえかな。

 何の計算もなく上目遣いをする卯月に図らずも真顔を向けてしまったが、俺の微妙な胸中を一歩前にいる大塚先生が察せるはずもなく、笑顔で「仲良しですね!!」と小学生のようなコメントを下さった。





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