1. 跳 「……………お前は小学生か? 幼稚園児か?」 「……ごめん」 「何でわざわざ水溜りに足を突っ込む? 何でわざわざ泥水を踏みつける? しかも勢い良く」 「……すみません」 「水が跳ねることくらいわかるだろ? 泥が跳ねて汚れることくらいわかるだろ? あ゛??」 「……責任持って洗わせて頂きます」 「いい。やるな。お前にまともな洗い物が出来るとは思わない」 「チハルっ!」 「制服が汚れたから買い物はナシだ。このまま家に帰る。じゃあな」 「嫌だ! チハル、買い物はしなくていいから帰るな。…オレん家に行こ。ちゃんと綺麗に洗う」 「………ここ」 「っ、?」 「跳んでる、泥」 「…チハル‥、痛ッ!」 「住宅街の道で何考えてんだこの馬鹿!」 * * * * * 2. 歌 「‥チハル、何で歌の練習なんかしてんの? 明らかに合唱っぽいけど」 「再来週にテストがあるんだよ。選択音楽の」 「音楽って、クラシック聴いたり解釈やったりするだけじゃねぇの?」 「そうだったんだけどな…。今学期から合唱もやるって、今日の授業でいきなり言われて、いきなり楽譜渡されたんだよ」 「へぇ〜…。でも、チハルなら余裕だろ?」 「お前、人の話し聞いてたか? ただ歌を歌うんじゃなくて、合唱なんだよ。クラス単位のテストなんだよ」 「‥‥まさか、どうしようもない音痴がいるとか?」 「…どうしようもないわけじゃねえけど、歌を歌うなんて聞いてない、歌がないから音楽を選んだのに、音痴だから絶対みんなに迷惑かける、って最高に落ち込んでる奴がいてさ」 「でも、合唱って言ったって、結局は個人の実力を評価すんじゃねぇの? 選択音楽のテストなんだし」 「いや、『合唱』として全体で評価を決めるって言ってたから、個人の実力は殆ど関係ないな」 「…じゃあ、先生に頼むか」 「頼むかじゃねえよ。日本語は正しく使え。つーかお前が先生って言うと気持ち悪い」 「酷いな、チハル。誰も脅すなんて言ってないのに」 「言ってんじゃねえか」 * * * * * 3. 舞 「チハル、ダンパで着る服、オレが選んでもいい?」 「…俺、サボるから」 「何で?! オレ、チハルにすっごくかわいいの選ぼうと思ってたのに!」 「選ぶな」 「何でサボるんだよ!? ‥、誰かと会う約束があるとか?」 「違ェよ。…今年のダンパ、仮面舞踏会なんだろ? 変な女会長がゴリ押ししたとかで」 「そうだけど、仮面が嫌なのか?」 「嫌って言うか、仮面つけて顔が見えねえなら参加しなくてもいいかなって。どうせ出席とらねえし」 「何で?! 仮面つけるから堂々とイチャつけんじゃねぇか!」 「全校生徒の前で堂々とイチャついてどうしたいんだてめえは」 「そんなのチハルはオレのものだって、」 「態度でも言葉でもそんなこと宣言しやがったら海に沈める。…つーか、仮面つけてたら意味ねえだろ」 「じゃあっ、」 「勘違いすんな非常識野郎。仮面とったらいいってわけじゃねえよ」 * * * * * 4. 叫 ※暴力 「最期に叫びたかったら叫んでもいいぜ?」 「…賢聖。それを言うなら、言いたいことがあったら言え、だ。つーか最期じゃなくて最後な。俺、人殺しになるつもりはねえから」 「っ、……てべぇ、ら…ッ」 「何?」 「…覚悟、しどけ、よ‥っ、…俺に、ごんなこと、して、ぅあ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」 「何? 何だって? 聞こえるように言えよ、はっきりと」 「ぁ゛あ゛あ゛っ、が…ッ!!」 「俺にこんなことして…、何? 続きは? まさか、ただで済むと思うなよ――とか?」 「う…、ぁ゛アっ……!」 「笑わせんな。ただじゃ済まねぇことしたのはテメェだろうが。昨日も今日も尾行(ツケ)やがった挙句、いきなり鉄パイプ振り下ろしてきやがってよぉ」 「ぐあっ、あ゛あ゛あ゛…ッ!!」 「危ねぇじゃねぇか。オレのチハルが怪我でもしたらどうすんだ? テメェらのクソみてぇな命で償えるもんじゃねぇんだぞ? わかってんのか? あ゛?」 「ッ、…く‥、そ、がぁ……!」 「だからクソはテメェらのことだっつーの」 「賢聖、その辺にしとけ」 「何でだよ。コイツら、チハルのことを『キバの抜けた狂犬』って馬鹿にしたんだぜ? 殺してもいいくらいだ」 「その『キバの抜けた狂犬』にあっさりやられるような雑魚共に、俺が耳を傾けるとでも? 悪いな。俺の耳は昔っから気紛れで傲慢なんだ。――だから、」 「ぎゃぁぁあああぁあぁああ!!!」 「何を言われても、何を叫ばれても、気にならない。キバがあろうがなかろうが、邪魔なものを排除する。それだけだ」 * * * * * 5. 表 「――――…、何だコレ」 「? 通知表」 「中身のことだ。2と3ばっかじゃねえか」 「まぁ、サボってるし」 「お前のテストの点を考えれば、サボってたって4になるんじゃねえの? 少なくとも、半分以上が2と3で埋められることはねえだろ」 「まぁ、寝てるし」 「…提出物の期限も守ってねえし?」 「そう」 「……お前、学校を何だと思ってるんだ? 優等生になれとは言わねえけど、もう少し真面目にやれよ」 「チハルと違うクラスだから無理だ」 「…とりあえず、サボるのだけはやめろ」 「チハルのいないクラスで授業受けるのは面倒だ」 「サボったってその場所に俺がいるわけじゃねえだろ。‥‥お前がサボりすぎると、俺が色々言われんだよ」 「…何て?」 「日向は何処にいるんだとか、日向はお前の言うことなら聞くんだからお前がしっかり注意しろとか、お前までサボったりしないよな?とか、付き合う人間は選べとか…そんなとこ」 「わかった。言われたことと言った奴の名前、覚えてる範囲でいいから紙に書いといて」 「いや、書いといてって、お前、」 「楽しみだなぁ、死にたいけど自分では死ねない最低人間の一覧表」 「最低人間はてめえだボケナス!!」 * * * * * 6. 観 「なあ、これって花咲かないのか?」 「冬頃に小さくてあんまり目立たない花が咲くけど」 「ふぅ〜ん…地味だな」 「まあ、観葉植物だからな。メインは花じゃなくて葉っぱだし」 「名前は?」 「クロトン。学校の職員玄関に並んでるのと同じだよ」 「………こんなのあったか?」 「…大抵の人間は登校の際に目にすると思うんだが?」 「オレ、職員玄関の方なんか見ねぇから」 「…そうだな」 「チハル、花咲いたら写メって送ってよ」 「…地味なのに?」 「地味でも、チハルが育ててるやつだし」 「……見に来ればいいだろ」 ※6倍数の御題様より6つの表現する一文字の御題2 FIN * CHAP |