万「はい、チー。こっち向いてー」 十「ちょっ、何で兄貴がカメラ構えてんだよ」 百「そーよ。何でマリ男がチーちゃんを撮んのよ」 千「…………おい」 零「すごーいっ。マリちゃん、かっこいい」 百「レーちゃん。間違っちゃダメよ? マリ男の格好いい所は、ダンディーなパパ譲りの顔だけなんだから。マリ男がカメラ持ったくらいで格好よくなるなら、あたしの担任のバーコードだって格好よくなっちゃうわ」 百音、零音の前にしゃがみ込んで純粋な妹に言い聞かせる。 万「…モモ、実の兄貴に向かってそれは酷くない?」 十「実の兄貴だからだろ。唯一誇れる漢前の顔があってよかったな」 万「……そうだな。どっかの誰かさんと違って、姫役やっても女子と間違えられることはないし」 十「!!」 十夜、万里の発言に目を見開く。 千「………おい」 百「あー、…そう言えばアンタ、中学の文化祭で劇やった時、女装して姫やったんだっけ?」 零「レー、おぼえてるよっ。トーヤくん、すっごくきれいだった! あとね、んーと、いろっぽかった!」 零音、握り拳を作って興奮したように喋る。 十「ギャーッ!! レーちゃん、思い出さなくていいからっ!!」 百「確かミニアルバムに二十枚近く入ってたわよね? あれ、どこに仕舞ったんだっけ?」 十「いらねぇっ! 探すな!!」 万「大きいアルバムのケースに挟んであったんじゃなかったっけ。えーっと…、」 十「こんな時ばっか積極的に動こうとすんじゃねぇよ!! クソ兄貴! さっさとチーちゃんの写真撮れっ!!」 千「 人 の 話 を 聞 け ! ! ! 」 千早、撮影所中に響き渡る大音量で叫ぶ。 万・百・十「「「!」」」 千「…………」 万・百・十「「「…すみませんでした。お話をどうぞ」」」 万里、百音、十夜、姿勢を正して頭を下げる。 千「――兄貴、長男のくせに当然のように次男をトップバッターにしようとするな」 万「‥はい」 千「モモ、トーヤ。少しでいいから弟と妹の見本になるような言動をしなさい」 百・十「「‥はい」」 零「…チーちゃん、ごめんなさい」 千「レーはいいんだよ。人を褒めることはとても大切なことだし、長所を見つけられることもとても素晴しいことだからね」 千早、零音の頭を優しく撫でる。 零「おこってないの?」 千「勿論、怒ってないよ。でもレー、はしゃぎ過ぎて撮る前に眠たくならないようにな。それから…、イチ」 一「………」 千「イチ」 一「…、?」 一季、壁際のソファーの上で瞼を押し上げる。 千「寝る前の読書は程ほどにしとけよ」 一「‥はい」 千「よし。じゃあ気持ちを入れ替えて撮影、始めるぞ」 十「…チーちゃん、兄貴から撮るの?」 千「そりゃー、普通に考えて長男からだろう?」 百「チーちゃん、あたしはチーちゃんからがいいんだけど」 千「モモ、こういう場合は一番上からだろう? 兄貴がみんなの手本になるかは別として」 万「……」 百「でも、あたしたちの中心って言ったらチーちゃんだもん」 万「……」 十「そうだよ。拍手押してくれる人だって、初っ端にダメ長男が来たら損した気分になるって」 万「お前ら、ほんと俺には言いたい放題だよな。いーけどね。別にいーけどね。チーの写真撮るのは俺ですから」 万里、ツンと唇を尖らせ、首から提げたカメラをしっかりと掴む。 百・十「「うぜぇ」」 百音・十夜、兄弟の中で最も体格のいい男の言動に氷のような目で吐き捨てる。 万「‥っ!」 千「…はいはい、わかったわかった。俺が最初に撮られればいいんだろ。ほら、兄貴」 千早、これ以上時間を無駄にしない為に自らライトの下へ向かう。 万「チハヤ〜」 千「気持ち悪い声出さないでさっさとカメラ構えて下さい」 万「はいっ」 万里、綺麗な作り笑顔と硬質な敬語に慌ててレンズを覗き込む。 零「チーちゃん、ウインクしてっ。ニッ、て!」 千「え…、ウインク?」 十「賛成!」 百「あたしも賛成!」 千「お前ら、他人事だと思って…モデルみたいなことが簡単に出来るわけないだろうが」 零「…チーちゃん、だめ?」 零音、チーちゃんのウインクしたところ見たいのに、という顔で千早を見つめる。 千「っ…、……兄貴、巧くタイミング合わせろよ」 万「これでも俺、チーの頼みだけは断ったことないからね」 千「‥自慢になんねえよ」 万「はいチー、感謝の気持ちを込めて笑って?」 ――千早が管理人から渡されたハート型のチョコを銜えてウインクした瞬間、シャッター音が一刹那の表情を切り取った。 |