[携帯モード] [URL送信]

ボカロ図書館
モノクロタブレット 第4話
振り向くことは出来ない
僕らには前しかない



雨は一段と強まっている
雨音が鬱陶しく感じる
「…」
僕達はあの後部屋に戻ってきて全く会話が無いまま三時間は過ぎてた
「なんで…なんで…」
「ミク姉…」
僕も慰めてあげることが出来ない
どう慰めたら
「おーい、お前ら」
やってきたのは中崎のおじさんだ
「あっおじさん」
「…なんかあったのか?」
「うん…まぁ…」
「そうか…」
中崎のおじさんは僕達3人を抱きしめる
「お前ら頑張ったな」
「えっ?」
「人の死ってのはえげつないもんだ」
「どうしてそれを?」
「こんな場所で悲しくなんのは誰かが死ぬことぐらいしかないからな」
「だけど僕達頑張ってなんか」
「いや、お前らは死を受け入れようと必死になってる」
「死を受け入れる?」
「あぁ、俺なんか仲間が死んだ時は1ヶ月かかってやっと受け入れ始めたくらいだ。お前らはもう受け入れようとしてるだろ?」
「だけどまだ死んだって思えないよ」
「無理に死んだって思うこともないと思うぞ」
「どういうこと?」
「大事なのはそいつがちゃんと生きてたこと。それを忘れなきゃいいんだよ」
「だけど」
ミクが反論する
「まだすごく小さくて、医務室しか知らなくて、私達と友達になったばかりで、それでもう夕方には死んだって…」
「残酷だがこれが今の時代なんだよ」
「あんなに小さい子供を来るべき時に出さなくても!」
「なぁミク、残念な事を言うが、ここに子供や大人って概念はねぇんだ」
「だけど…」
「お前が言いたいことはわかる」
おじさんはミクをぎゅっと抱きしめて頭を撫でる
「俺が責任者だったらお前らを来るべき時なんかに出したりしないくらいだ。お前らを死なせたくない」
「おじさん…」
「ごめんな」
「おじさんは、悪くないよ…」
「リンちゃん、レンもおいで。思いっきり泣くんだ」
「おじさん…」
僕達はおじさんのもとに駆け寄る
「うわぁぁぁぁぁん!!」
僕達はまた泣いた
リンは声が出ないけど口を大きく開けて泣いていた
「お前らが無理したり我慢する必要なんて存在しねぇんだ。俺にはこれくらいしか出来ないんだがな。」
おじさんは僕達を抱きしめて頭を撫でてくれた
僕達が泣き止むまでずっと

「じゃあなお前ら。」
「ありがとうおじさん。」
僕達は部屋を出るおじさんにそう言った
「私達、頑張らないとね。」
ミクは呟く
「そうだね、おじさんが励ましてくれたし。」
「じゃあまた射撃の練習に行こうか。」
「うん。」
リンもゆっくり頷いた
移動する中、リンは僕の手を握ってきた
「リン?」
リンは俯いたまま何もコミュニケーションを取ろうとしない
「…」
僕は何も言わず手を握りしめた
「今日も動く的?」
「そうだね、敵は動くだろうし」
「リンもそれでいい?」
リンは小さく頷く
「やらなくちゃ、私達の誰かがやられる」
「うん…」
射撃場に着き、早速練習を始める
「リン、大丈夫?」
リンは銃を構える
準備は出来ているようだ
「じゃあ…いくよ」
「うん」
「では、始めてください」
アナウンスがそう告げた途端、的が流れてくる
僕達は銃で的を狙っていく
的が全て流れ終わってスコアを聞くと前より上達していた
「動く的を狙えるようになっていけば来るべき時にも対応出来るよね」
「多分ね」
「だけど相手は大きいんだよね」
ルカさんの話を思い出して敵の姿を思い浮かべる
「人間の三倍…」
「黒い色…」
「獣のような体つき…」
情報があっても姿は全く想像出来ない
来るべき時について考えてると疑問が出てきた
「思ったんだけど、来るべき時ってタイミングがあるんだよね」
「?どうして?」
「来るべき時に備えるって事はいつか来るべき時っていうのがあるんだよね」
「うっうん?」
「つまりご飯食べる時みたいに決まっているって事だよね?」
「私にはわからないよぉ」
「ルカさんに聞けるかな?」
「ルカさんの部屋に行く?」
「うん」
リンも頷く
僕達は別のフロアのルカさんの部屋に来た
「ルカさん、いてる?」
ドアをノックして聞いてみる
「やぁ君たち」
ドアの前にいる僕達に話しかけてきたのは大友さんだ
「あっ大友さん」
「ルカに何か用かな?」
「うん、ルカさんに聞きたいことあって」
「どんなことかな?」
「それはね、来…」
「あら、あなた達」
そこにルカさんがやってきた
「大友さんまで、どうされたんですか?」
「あぁ、この子たちがルカに話したいことがあるらしくてね」
一瞬大友さんが怖い顔をしたように見えた
「あらそうなの?私の部屋で話しましょうか」
「うん」
「大友さんもお茶してはいかがです?」
「気持ちはありがたいが忙しい身でね。また今度にしておくよ」
そう言って大友さんは歩いていった
「じゃあ入って」
「お邪魔します」
ルカさんの部屋はかなり整理整頓されて綺麗だった
「ミク姉も整理整頓出来たらいいのに」
「私頑張っているもん!」
「僕達が頑張っているんだよ、ねっ」
僕はリンの方を見る
リンはうんうん頷いていた
「もうっ!リンちゃんまで!」
ミクは顔をぷくっと膨らませる
「はいはい、そこまで」
ルカさんが仲裁に入る
「それで、私に聞きたいことがあるんでしょ?」
「あっうん」
一瞬大友さんのことが浮かんだが、本題に入った
「来るべき時のことなんだけど」
「来るべき時?どうかしたの?」
「誰が来るべき時が来たのを伝えるの?」
「っ!」
ルカさんの顔が一瞬で凍りついた
「ルカさん?」
「…ごめんなさい、私にはわからないわ」
「うーん、そうなんだ…。大友さんならわかる?」
「大友さんもわからないわ。誰にもわからない」
「じゃあどうやって伝えるの?」
「知らないわよそんなの」
ルカさんの口調がきつくなる
「ごめんなさい…」
「あっ、私こそ取り乱して…ごめんなさいね」
僕達は部屋を出ることにした
「またいつでも来てね」
「うん、ごめんなさいルカさん」
「気にしないで」
ルカさんはドアを閉じた
「ルカさんすごく怒っていたね」
「うん、でもどうして怒ったのかな?」
「聞かれたくないことなのかな?」
「でもルカさんは来るべき時のこと話してくれたよ」
「それはそうだけど…」
リンが裾を引っ張って何かアピールしている
「どうしたの?」
リンは画用紙を見せる
画用紙には「おなか空いた」と書かれていた
「あっもう晩御飯の時間だ」
「リンちゃん覚えてたんだね」
「いや、おなか空いたって書いてるじゃん」
「私もリンちゃんが欲しいかも」
「ミク姉何言ってんの!」
僕はミクの頭にチョップを入れる
「いった〜い!」
「バカなこと言ってないでご飯行こうよ」
「はいはい」
いつもの食堂
だけど遅めに来たからちょっと人が多い
「うわぁ、座れるかな?」
「私料理見てくるから席取りしてて」
ミクは料理の所へ走っていった
「どこか空いてるかな?」
リンが裾を引っ張ってアピールしている
「ん?どうしたの?」
リンが指を指す先に三人分空いてる席を見つけたが
「一人座っているね」
リンは画用紙に「聞いてみたら?」と書く
「うーん、他に席もないし聞いてみようか」
僕はその人のとこへ行く
その人は白く長い髪
青のラインが入った黒いリボンで髪をまとめてる
背中からは美人なイメージなんだけど
何か変な空気が流れてる気がする
「あの、すみません」
「ひっ!」
「えっあっあの、ここ空いてますか?」
「あっ空いてます」
いきなりびっくりされた
いや、僕の方がびっくりなんだけど
「席取り出来た?」
「あっミク姉、ここ大丈夫みたいだよ」
「あっ私にお構いなく、いないと思ってください」
「えっ?いや、ありがとうございます」
「席取り出来たからご飯取りに行こうよ」
「そうだね、今日は小松菜があったよ」
僕達は料理を持って戻ってきた
「この人不思議な感じだよね」
ミクが小声で話してきた
「うん、まぁ…」
「食事なのにため息ばかりだし、なんか弱音吐いてるよ」
「陰口は良くないよ」
「だってそうなんだもん」
「あのぉ、私に何か付いてますか?」
「いっいえ!何も!」
僕達は声を揃えて言った
「あっ僕レンって言います。こっちは妹のリン」
リンは頭を下げる
「私はミクです」
「みんな良い名前ですね。私なんか…」
「ええっ!?」
「何も悪くないですよ!?」
僕達がどうしたらいいかわからない時、聞き慣れた声が聞こえた
「あら、あなた達」
「あっルカさん」
「ハクも一緒なのね」
「えっあっルカ、この方々と同席させていただいてます…」
「オドオドしなくて良いわよ」
「あっごっごめんなさい!」
ハクという女性はまだ食事が残った状態なのに下げていった
「あの子は心配症なのよ」
ルカさんはハクさんがいなくなって空いた席に座る
「知り合いなんですか?」
「私と一緒にずっと暮らしてるわ」
夕方のルカさんの顔が頭に残ってあまり話しかけれない
ミクはハクさんが気になるみたい
「ハクさん、美肌ですよね」
「あぁ、でも健康に良くないわよ」
「そうなんですか?」
「だってあの子、引きこもりがちで人工太陽すら浴びないんだもん」
「大丈夫なんですか?」
「案外あの子は大丈夫みたいよ。おかしい子よね」
そう言ってルカさんは笑う
僕も色々聞きたいけどルカさんが怒るかもって考えたら聞けない
「レン君、どうしたの?」
ミクが僕の顔を覗き込む
「何でもないよ」
「そう?また質問するのかと思った」
「僕は毎回質問するわけじゃないよ」
「…あ!わかった!」
ミクは何かわかったような顔をする
「ハクさんが気になるんでしょ?」
「え?」
「レン君お得意の質問攻め出来なかったしね」
「別にそういう訳じゃ…」
「ルカさんならわかるよ。そうですよね?」
「えっ?ええ、わかるけど」
「ミク姉、ルカさん困ってるよ」
「レン君がどうしたのか教えてくれないからだよ」
「そう言われても…」
僕はただルカさんが怒っているんじゃないかって思っているだけ
「…ハクのことなら話すわ」
「え?」
「あの子は生まれた時から両親を知らないの」
「どうして?」
「父親は来るべき時に出されたし、母親は出産直後に死亡」
「…」
「心理学的な話だけど、愛情無く幼い頃を過ごすと信用を持てなくなるし」
「亡くすってすごい大変なことですよね…」
「まぁあの子はそれでも頑張って生きてるけどね」
話を聞いてなんだか気分が悪くなる
「レンくん、どうしたの?」
「なんかすごく…吐き気が…」
僕はその場で意識を失った
ミクやルカさんが僕を呼ぶ声がどんどん遠くなる
そのまま何も聞こえなくなった
真っ暗で何も聞こえない世界で僕は記憶を思い返した
そこにはいつもリンがいた
そしてもう1人は
「レンくん!」
「!」
「良かった!目が覚めた!」
「えっ?ミク姉?」
「どうなっちゃうかと思ったよぉ」
ミクは涙声で話す
「ここは…」
「医務室だよ」
「あっ先生」
「僕は一体…」
「急性ストレス障害だよ。最近かなり心に負担になる出来事があったんじゃないかな」
「負担になること…」
頭に可愛のことが浮かぶ
「無理に思い出さなくていいからね」
「急性ストレス障害って?」
「ものすごく辛いことがあってそれがフラッシュバックする。つまりいきなり辛い出来事が頭に浮かぶんだ。その時の感情や映像、さらには臭いまで思い出す人がいるんだ」
「そっか…ルカさんの話で思い出したのかも…。あっルカさんは?」
「レンくんを運んだ後帰っていったよ」
「迷惑かけちゃったね。…今何時?」
「今6時だよ」
「あれ?リン?」
リンがいないことに気付いて周りを見渡す
「リンもそこのベッドで寝てるよ」
ミクが指差す方を見ると画用紙を抱きかかえて眠るリンがいた
「リンちゃんすごく心配してたよ」
「みんなに迷惑かけちゃったね」
「まぁでも元気になったみたいだし大丈夫だよ!」
「うん!」
「あっ先生、レンくんを連れ出しても良いですか?」
「まぁ落ち着いてきてるなら大丈夫だよ。ただし、無理はしないでくれよ?」
「わかりました」
僕達は医務室を出てエレベーターに乗り込む
「すっかり医務室に馴染んだね」
「リンが倒れてからだよね」
「そこで可愛ちゃんに…」
ミクは言うのを止めた
僕の負担になると思ったんだろう
「ミク姉、ごめんね」
「えっ?」
「気を使わせてしまって」
「もぉー、レンくんらしくないよ!」
ミクは笑顔で言ってくれた
だけど無理に作った笑顔なのはすぐわかった
「あっ着いたよ!」
ミクはすぐに駆けだして料理を見に行った
「じゃあ席取りしようか」
リンは頷く
周りはまだ人はまばらだ
前に座ったあの窓際の席
少女を見かけた席に座ることにした
「…やっぱりビルは無いや」
リンは不思議そうな顔で見てくる
「前にミク姉が歌ったの覚えてる?」
リンは画用紙に「どんな歌?」と書いて見せる
「僕達が聞いたこと無い歌だよ」
リンは首を傾げている
「覚えてないのかな…」
そこにミクが来た
「今日はカリフラワーあったよ!」
「あっミク姉」
「ん?」
「前にそこにビルがあって女の子がいたの覚えてる?」
「女の子?外にいたら殺されるよ」
「そうじゃなくてビルがあって女の子がいて変なやつらが囲んで」
「レンくんどうしたの?」
ミクはリンにアイコンタクトした
リンは首を傾げたままだ
「レンくん夢見てたんじゃない?」
「夢じゃないよ!」
「でも私もリンちゃんもわからないよ」
「でも…。じゃあミク姉が歌ったのは?」
「歌?子守歌?」
「違う違う!聞いたこと無い歌だよ!」
「どんな歌?」
ミクは呆れた表情になってきた
「小鳥が囀りとかみんな生きているとか!」
「えっ…」
ミクは驚いたような顔をする
「ミク姉?」
ミクが固まる横でリンが画用紙をバタバタさせて何かアピールする
「どうしたの?」
リンは一生懸命外を指差す
「…あれは…」
翼を広げた大きな物体がこっちに向かってくる
「リン!ミク姉!逃げよう!」
「えっ?あっうん」
ミクは何も理解出来てないみたいだ
僕達が食堂から出てエレベーターの前にさしかかった時、ものすごい爆発音と地響きが起きた
「うわぁ!」
「きゃっ!」
僕はとっさにリンの手を掴む
僕達はそのまま床に伏せた
「ってて…。リン、ミク姉大丈夫?」
「私は大丈夫…」
リンは僕の手を握りしめて合図する
「何だったのかな…」
食堂を振り返ると何か乗り物が突っ込んだようだ
食堂は原型を留めず火災が発生して壁はボロボロになっている
「飛行機だ…」
「レンくん?」
「助けないと!」
「あっレンくん!」
僕は飛行機に駆け寄り大きく破損した部分から入った
「!」
内部も火の手が上がっている
座席には人の形をした何かが燃えて変な臭いがする
「誰かいますか!」
僕は誰かいないか叫ぶ
奥に行くと人じゃない何かが燃えていた
「これって来るべき時の…」
何だか呼吸が苦しくなってきた
「誰か…!」
さらに奥に進むと少女がいた
「あっ」
この子は見たことある
あの少女だ
「大丈夫?」
僕が体を揺すると少し反応があった
「今助けるから…」
少女を背負って僕は飛行機を後にした
「レンくん!」
リンとミクはエレベーターの前で待っていた
「階段で医務室へ行こう!火災の時にエレベーターは危険だから」
「レンくん、その子…」
「生存者だよ」
「私が背負う!」
ミクは少女を背負って医務室を目指す
僕はリンに手を引いてもらいながら医務室を目指す
「先生!」
「君たち!無事か!」
「私は大丈夫です!背中の子を診てください!」
「この子は…」
「レンくんが…飛行機?の中から助け出しました」
「火災が起きてる所から?」
「はい」
「爆発で火災とは聞いていたが…。レンくんも今すぐ検査する」
「えっ…ぼぐは…」
何故か上手く話せない
「喉が燃えカスでやられているんだ。すぐ処置する。救般が多くなるな…。君たちはケガは?」
「私は大丈夫です」
リンは画用紙に「大丈夫」と書く
「そうか、ちょっと検査しよう。何もなければプレイルームで待っててほしい」
「わかりました」
ミクとリンは看護士に連れられていった
「ちょっと検査するよ」
「はい…」
僕は先生の検査を受けた
幸い、傷は少しで大丈夫だった
先生にむちゃし過ぎと怒られたけど、あの女の子は僕のおかげで助かるって言って褒めてくれた
僕は運ばれてくる人をよけながらプレイルームへ急ぐ

[*前へ]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!