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モノクロタブレット 第3話
悲しみの雨が降る中で
少年少女は涙を流す



「おはようございます」
そう言って医務室に入るとリンが椅子に座って待っていた
「リンちゃん大丈夫?」
リンは大きく頷く
「あっこんにちはー」
リンの横から小さい女の子が出てくる
「君は?」
「私、ユキって言います」
「リンちゃんの友達?」
リンは頷く
「リンさんから色々お話は…えっと…伝わってます!」
「気を使わなくていいよ。リンは話せないから筆談かな?」
「あっはいっ」
「はははっ」
リンも笑顔になる
「とりあえずご飯たべようよー」
「そうだね。君も来る?」
「あっ嬉しいです!あっだけど私、医務室から出れなくて…」
「具合悪いの?」
「そうじゃないんです。ただ、先生からストップがかかっているんです」
「そうなんだ…」
リンもガッカリしたような表情を見せる
「あっあのっ私のことは気にしないでください!ずっと前からなんです」
「ずっと前?」
「小さい頃から医務室で過ごしているんです」
「ずっと医務室って大丈夫なの?」
「はいっ先生もいますし、何よりリンさんみたいにここに来る人と話すのは楽しいです!」
ユキは満面の笑みを見せる
「そうなんだ!」
僕達はユキにさよならを言って医務室を後にする
「ユキって子、可愛いね!」
早速ミクがはしゃぐ
「ミク姉って小さい子好きだね」
「えっ?」
ミクは驚いた表情をする
「私?」
「うん」
「えっいやっ小さい子じゃなくても…ね?」
「ね?って…まぁいいや」
ちょうどエレベーターがやってきた
「今日はなんだろうね?」
「また同じじゃない?」
ふと見ると、エレベーターの奥に白衣を着た人が2人いて何やら話し合っていた
「アメリカは三分の一は取り返したらしいぞ」
「さすが天下の大国だな」
「だけど奴らめ、兵器を使うらしい」
「それは苦戦しちまうな」
「他の地区はどうなんだ?」
「欧州は芳しくないな。日本だって北海道は危ない状態らしい」
「その点、沖縄には米軍がギリギリいてくれて助かったな」
「だな」
白衣を着た人は食堂のフロアに着く前の情報管理フロアで降りていった
「なんかすごい話だったね」
「来るべき時は私達だけの問題じゃないんだね」
「世界中で来るべき時があるんだね」
「ぐぅ〜」
ミクのお腹が鳴る
「あっ…あははっ!」
「ミク姉〜」
僕達は笑顔になる
「早く何か食べたいね!」
「うん!」
エレベーターが食堂のフロアに着いた
「今日は…あそこが空いてるよ!」
ミクが指差した場所は一番奥の窓際の席だ
「私は食事見てくるから席取りよろしくね」
「ミク姉は食事の先見隊だね」
リンはうんうん頷く
「行こうか」
僕はリンと席取りをしにいく
席は東向き
「見てごらん、リン」
リンは外を眺める
「あのタワーが見える?」
リンは頷く
視線の先にはへし折れた淡い色の塔が見える
「確かあれはね…えーと…何だったかな…」
どうしてだか名前が思い出せない
「あんなにも人気だったのに」
その自分の声にハッとした
「あんなにも人気だった?」
リンは首を傾げている
「どうして僕はそんなこと…。僕はこの場所の人間なのに」
考えてる内にミクがやってきた
「今日はお吸い物があるよー」
「えっ?あぁ、うん」
「どうしたの?」
「ううん、何でもないよ」
ミクはリンの方を見る
リンは首を横に振る
「うーん、また考え事?」
「まぁ…そんなとこかな。あのタワーってなんて名前なのかなって」
僕は淡い色のタワーを指差す
「ん?あぁ!あれは失楽の塔って呼ばれてるよ」
「えっ?失楽?」
「人類が負けた象徴で負の遺産なんだって」
僕が思ったのとは全然違う
もっと空に向かうような名前だったはず
「早く食べようよ」
「あっそうだね」
僕達は食事を取りに行く
「あっお吸い物だね」
「私そう言ったよ?」
「えっ?あぁ、そうだったね」
「いちいち悩みすぎても仕方ないよ」
「うん」
だけど、どうも頭の整理がつかない
まるで自分が知ってた世界とは違うような
「はい、リンちゃん」
ミクはお吸い物を掬ってリンに渡す
「はい、レン君も」
「ありがとう」
僕達は席に戻る
「今日の席は残念だね」
「どうして?」
「失楽の塔が見えるからだよ」
「悪いこと?」
「うーん、あんまり良くないんじゃない?」
「うーん…」
「はいっ悩まない!」
「えっ?」
「悩んでも意味ないよ。だって知らないんでしょ?」
「うっうん、まぁ」
「それなら楽しく考える方がいいかなぁ」
ミクの意見はいつも最もな事を言ってくれる
「そうだね」
「じゃあ食事の後何するか考えよう!」
「銃の練習する?」
「それが妥当かな」
リンが紙に何か書いて僕達に見せる
「どうしたの?」
紙には「ユキちゃんと遊びたい」と書かれていた
「ユキちゃんって医務室の?」
リンは頷く
「だけどユキちゃんは医務室から出れないんじゃ」
僕は言ってみる
リンは紙に「医務室で遊べる」と書く
「それならユキちゃんと遊ぼうよ!」
「うん、そうしよう」
リンは頷く
「そうとなればご飯早く食べて行こう!」
僕たちはご飯を食べて医務室へ向かう
「ユキちゃん喜ぶかな?」
「楽しく遊べたら大丈夫だよ」
「あっレン君、悩み事ユキちゃんに話さないでね」
「えっ?」
「どうせレン君のことだから゛ユキちゃんはどうして医務室から出れないのかな?゛とか考えているんでしょ?」
「えっ、まぁ」
「やっぱり。ユキちゃんには難しい質問は禁止!」
「わかったよ…」
どうやら質問のことでミクに目を付けられているらしい
質問し過ぎたと思うけど
「失礼します」
「ん?君達は朝も来てたね」
出迎えてくれたのは先生だった
「あのー、ユキちゃんはいます?」
「あぁいるよ、この部屋の奥だよ」
僕達はユキちゃんのいるところへ向かう
「ユキちゃん!」
「えっ?あっミクさん!」
「こんにちは」
「レンさんにリンさんまで!」
「ユキちゃんと遊びに来たんだよー」
「嬉しいです!」
「えと、何して遊ぼうか?」
この部屋にはオモチャみたいなものは無い
「それならプレイルームに行きませんか?」
「えっ?医務室から出れないんじゃないの?」
僕の質問にユキちゃんは笑顔で答える
「医務室の中にあるんですよ」
「早速そこに行こー!」
「はい!」
僕達はプレイルームへ向かった
プレイルームの中には様々なオモチャや絵本があった
「これは?」
「人生ゲームって言うらしいです」
「お金とかなんだかすごいね」
「ねぇレン君、お金って?」
「えっ?お金でお菓子とか欲しいのを買うんだよ?」
「だけど私達お金なんか無いよ?」
「貧乏?」
「レン君、お金って何?」
「僕どうしたのかな…」
確かにお金なんて無い
そもそもお金概念すら無い
「レン君大丈夫?先生に見てもらう?」
「レンさん、大丈夫ですか?」
「うん、まぁ」
「お金って人生ゲームで使うものですよ」
「えっ?」
「ほら、このマス」
ユキちゃんはあるマスを指差す
「ここに五億円でマンション購入ってありますよ」
「僕は人生ゲームを知ってたのかな?」
「きっとそうですよ」
「ユキちゃん、マンションって?」
「先生が言うには家族単位で暮らす家の集合体みたいです」
「ここみたいな感じかな?」
「それとは別で1家族にいくつもの部屋があるそうです」
「うわぁー、広そうだね」
「いつもミク姉が布団を二人分使っているもんね」
「私のネギ枕は重要だもん」
ミクはぷくっと顔を膨らませる
「ん?どうしたのリンちゃん?」
リンはミクに画用紙に書いた文字を見せる
画用紙には「ネギに水」と書かれていた
「あっ!私のジョージが!」
「ミクさん、どうしたんですか?」
「ごめんねユキちゃん!すぐ戻るから!」
そう言ってミクは医務室を飛び出していった
「ミク姉はネギを育てているんだ」
「そうなんですか」
「3人で何をする?」
「じゃあミクさんが来るまで人生ゲームをしてみましょうか」
「そうだね」
「これがレンさんでこちらがリンさんです」
ユキちゃんは僕達に何か手渡した
「これは?」
「これは人生ゲームでレンさんの代わりに動いてくれる駒みたいなものです」
「僕のは赤い車だ」
「詳しいですね。軍事とか好きなんですか?」
「軍事?これは普通の車でしょ?」
「えっ?車って来るべき時に使う軍事兵器じゃないんですか?」
「普通に移動する時に使うよ?よくデパートに連れて行ってもらったから」
「デパートってなんですか?」
「デパートっていっぱい色んなものが売ってるお店だよ?」
「?レンさんはここから出たことがあるのですか?」
「えっ?出たことはないけど…。あれ?」
また色々話してた
その時、プレイルームに誰か入ってきた
「やぁレン君、リンちゃん」
「あっ大友さん」
僕達は大友さんを見る
「ユキちゃん何だけどね、ちょっと先生が気になることがあるらしくて今日はもう遊べないんだって」
「そうなんですか…。また明日遊べますか?」
「先生が大丈夫と言えばね」
「そうですか…」
リンも寂しそうだ
「ユキちゃん、また明日来るね」
「はい、待ってます」
僕達は手を振りながら医務室を後にした
「あれ?レン君にリンちゃん、どうしたの?」
「ユキちゃんが先生に見てもらわないといけないらしくて今日は遊べないんだって」
「そっか…」
ミクも残念そうだ
「これからどうしようか?」
「うーん…」
リンが画用紙を持ってアピールする
画用紙には「銃の練習」と書かれていた
「あっ僕が朝食で言ったことだ」
「リンちゃんよく覚えてたね!偉い偉い!」
ミクはリンの頭を撫でる
「じゃあ射撃場に行こうか」
僕達は射撃場へ移動する
「よーし!頑張るぞー!」
「ミク姉張り切ってるね」
「うん、まぁね…」
「?」
ミクは少し元気が無いように見える
「よし!こい!」
射撃場には次々的が出てくる
しかも今回は動いている
「ミク姉、これって…」
「っ!」
乾いた音が一発響き渡る
「大丈夫?」
「うっうん」
ミクが撃った弾は的の隅に当たっていた
「泣いてるの?」
リンも心配そうにミクを見つめる
「ごめんね…、怖くなって…」
「来るべき時のこと?」
「うん…」
無理もない
銃が上手い翔太ですらやられたのだ
死を身近に感じてしまうのは僕も同じだ
「ミク姉、大丈夫だよ」
僕はミクの涙を拭いてあげる
リンはミクをぎゅっと抱きしめている
「2人とも…ありがとう…」
ミクは僕達を抱きしめた
「もう大丈夫だよ。練習しようか」
「うん」
僕達は再び練習する
「僕達もミク姉と同じ動く的にしてみるよ」
「じゃあ3人で誰が一番スコアが高いか勝負しよっか?」
「うん!」
リンも頷いて僕達はスコアを競うことにした
「いくよ…」
的がいきなり流れてくる
「これくらい出来ないと!」
「僕だって負けないよ!」
「私だってまだまだいけるもん!」
「リン!ミク姉に勝つよ!」
リンは頷く
「これが最後の的だ!」
「レン君に負けない!」
最後の的が流れて射撃を終了した
「今回の3人のスコアです」
機械のアナウンスが流れる
「一位は…リンさん。スコア1227点」
「えっ?」
僕達は2人してリンを見る
リンはVサインする
「二位は…ミクさん。スコア1039点」
「やった!」
「えー。僕最下位だ」
「三位…レンさん。スコア994点」
「もう少しでミク姉に勝てたのに」
「だけどリンちゃんすごいね!」
リンは少し恥ずかしそうにしてる
「リンちゃんおいで!」
リンはミクのもとへ行く
「リンちゃんすごいすごいすごい!」
ミクはリンを抱きしめると褒めながら撫でていた
「よお!お前ら!」
「ん?あっおじさん!」
振り向くと中崎のおじさんがいた
「すごい点数だな」
「GSRの上位の人は点数どのくらいなの?」
「まぁ軽く一万は超えちまうな。さらにお前らがやったのより的が複雑に動くんだ」
「大変そう」
「そりゃそうだろ。あっそうだ差し入れ」
「おじさんありがとう!」
おじさんは僕達にドーナツをくれた
「じゃあ頑張れよ!」
そう言っておじさんは射撃場を出た
「おじさんよくドーナツ持ってくるね」
「ねぇレン君」
「うん?」
「ドーナツにネギって合うよね」
「えっ」
「前もしようか考えたんだけどね」
今回ばかりはリンも少し引いている
「ドーナツには合わないんじゃない?」
「私のヴァニアンなら不可能も可能にするかも」
これはもう何を言ってもダメだ
ミクはドーナツを取りネギを振りかけた
「うわぁ…」
ネギの臭いとドーナツの臭いが混ざって何とも言えない
「いただきまーす!」
ミクは口を開けてネギがかかったドーナツを食べる
ドーナツなのにシャキシャキと音が聞こえる
「っ!」
「ミク姉どうしたの?」
「こっこれは…!」
「?」
「合う!」
「えー?!」
リンも驚いて目を丸くしている
「リンちゃんも食べる?」
「リンまで巻き込まないでよ!」
「はいレン君」
「うぐっ」
僕はミクにネギがかかったドーナツを口に突っ込まれた
「ひぎふぐっ!」
なんて不釣り合いな味なんだ
「リンちゃんも食べてー」
リンの画用紙には「嫌」と書かれている
ネギドーナツの味で倒れた僕の視界にはリンとミクがネギドーナツの攻防を繰り広げていた
「悪夢だ…」
これは悪夢でしかない
「あっレン君伸びてる」
ミクのせいだよ
「美味しいでしょ?」
「全然美味しくない」
「レン君はまだまだ子供だなぁー」
子供以前に組み合わせの問題だ
「あっもうお昼だ」
ふと時計を見ると12時を指していた
僕達は食堂フロアに降りる
「ミク姉の変なドーナツのせいであまり食欲出ないよ」
「美味しいのにー」
「僕達は席取りするからミク姉は見てきてよ」
「じゃあちょっと見てくるね」
「席取りしようかリン」
リンは頷く
「あっ今日雨降りそうだね」
外は雲行きが怪しい
基本天気とかは関係ないけど来るべき時のこととかあるみたい
「お昼は…あそこにしようか」
今回は真ん中辺りの席にした
「ユキちゃんってどうしたのかな」
リンは首を横に振る
「わかるわけないよね」
フロア真ん中の席だけに周りの話とかいっぱい聞こえてくる
「前に言ってた子、覚えているか?」
「前?どんな子?」
「ほら、最近見なくなった子の話」
「あぁ、来るべき時が来て帰って来ないから成功した話か」
「そうそう」
「あの子なら今頃奴らと入れ替わりの生活してるんじゃない?」
「実は裏話があってな、えーっと、あの子なんて名前だ?」
「智恵ちゃんでしょ、あなた達仲良かったじゃない」
「そうだったかな?まぁ智恵ちゃんのことなんだが」
僕も息をのんで聞いていた
「すでに死んでる」
「えっ?」
「エレベーターに乗ってた時に研究員が話してたんだ゛最近は来るべき時に勝つ人間が全くいないな゛って」
「それって…」
「俺が思うにこれは」
「どうしたの?レン君?」
「うわっミク姉」
ミクに割り込まれて話がわからなくなった
「何をしてるの?」
「何もしてないよ。ただ、雨降りそうって思って」
「あぁ雲行き良くないね。とりあえずご飯食べようよ」
「うん」
僕達はご飯を食べた
「お昼からどうしようか?」
「ミク姉、もう一度ユキちゃんの所行かない?」
「ユキちゃんの所?」
「うん、ちょっと心配で」
「そうだね、先生に話を聞いてみようか」
リンも頷いている
僕達は医務室に来た
「先生」
「ん?君達はユキちゃんの」
「はい、ユキちゃんは大丈夫ですか?」
先生は大きくため息をついて話した
「ユキちゃんは来るべき時が来た」
「えっ?」
一瞬で空気が凍りついた
そこに大友さんが入ってきた
「やぁレン君、ちょっと君達に来てほしいんだがいいかな?」
「?はい」
僕達は訳がわからないまま大友さんについて行く
連れてこられた場所には霊安室と書かれていた
「これから見せるのは少しショッキングかもしれないから気を付けてね」
霊安室に入ると広い部屋だった
窓からは雨が降っている様子が伺える
そして床には白い布を被された何かがいくつも並べられていた
「大友さん、これは?」
「…」
大友さんは何も答えない
そしてあるところで止まった
目の前には白い布が被せられた何かがあった
「心の準備はいいかな?」
僕達は頷く
大友さんは布を捲る
「!」
「そんな!」
そこには無惨な姿のユキがいた
「大友さん、これって…」
「この子は来るべき時で負けてしまった」
「嘘…嘘でしょユキちゃん!!」
ミクもリンもその場にうなだれた
「ユキちゃん…死んじゃったの…?」
「残念だが」
まだ幼い身体には爪痕が残っていた
唯一顔だけは綺麗に残っていた
「そんな…ユキちゃん…」
「うわぁぁぁぁぁん!!!!」
僕達は泣いた
大きな声で涙が枯れるまで

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