[携帯モード] [URL送信]

ボカロ図書館
短編初音ミク1 サイハテ
今日久しぶりにアイツが帰ってくる
高校から全然違う学校だったから何年ぶりだろう
ミクが朝真っ先に思い浮かんだのはアイツの顔だった
「私だって女の子だから少しオシャレしてみるの!」
まずは前髪を少し切ってみた
気づいてくれるかなっと期待しながら
今日の為に買ったピンクのスカート
アイツがくれたお花の髪飾りを刺して
「よし!出発!今日の私はかわいいのよ!」意気込みを入れてミクは待ち合わせの駅へ向かう
「(今日こそ!)」
ミクはアイツへの想いを告白すると決めていた
数年前に言いそびれたことを
駅へ着くとアイツがいた
「裕介!」
「ん?ミク来てくれたのか!」
「(言わなきゃ!)」
「久しぶりだな」
「うっ…うん」
ミクは顔が赤くなる
心臓はバクバク鳴っていて今にも裕介に聞こえそうだ
「裕介っ!あっ…あの…。す…すごく久しぶりだね!(違うのに!)」
「あぁそうだな。何年ぶりだろうな。元気にしてたか?」
「元気だったよ!」
「良かった良かった」
「(好きって言いたかったのに…)」
「ミク前髪切った?」
「う…うん」
「どんな感じ?ちょっと見せて」
裕介の顔が目の前に迫る
「(裕介の目、見れないよ〜///)」
「誰かに恋でもしてるのか?前髪切るなんて珍しいな」
「(君にだよ…。恋に恋なんてしない。だって君のことが好きなの…)」
素直になれない自分がちょっと嫌になる
「どこか行こうか」
そう言われミクは裕介と歩く
しかし、歩いていたら雲行きが悪くなってきた
「あっ雨だ」
「えっ?」
ポツポツ雨が降り出す
雨は強くなり土砂降りになった
「このコンビニで雨宿りしよう」
2人はコンビニで立ち尽くす
「今日は晴れって言ってたのに…。天気予報の嘘つき…」
ミクはカバンを探り折りたたみ傘を出そうとしたが
「(一本じゃ足りない…)」
そう思い、カバンにしまい込んだ
裕介はその様子を見て
「…。しょうがないから入ってやる」
「!」
裕介は笑顔で言った
「うん!」
ミクは嬉しくなる
2人は相合い傘でまた歩き出した
傘を持つミクの右手の上に裕介の左手が重なる
「(息が詰まりそうだよ…)」
ミクは恥ずかしさでいっぱいだ
「(裕介の手、伸ばせば届きそう)」
ミクは左手を伸ばそうとする
しかし出来ない
2人の会話は進まない
「(やっぱり出来ない!この想い君に届いてほしい…)」
心の中で必死に願った
気付けば公園の時計台まで来ていた
雨はまだ止まない
「(お願い時間を止めて!気持ち伝えられないよ…)」
ミクは泣きそうなのを必死にこらえている
「おっ雨が止んだ」
「えっ?あっ、本当…」
「ミク見てよ!虹だ!」
「ほっ、本当だ!きれい…」
裕介は虹を見ている
「(…こっそりいけば大丈夫!)」
ミクはこっそり裕介の左手に自分の左手を重ねた

夕方にさしかかる頃
2人は駅に向かって歩いていた
「(もうすぐ駅に着いてしまう…)」
ミクは寂しさでいっぱいだ
「(もう会えないのかな…。君が近くて遠いよ…)」
ミクは視線が下を向いたまま歩く
「ミク…大丈夫か?」
「あっ…うん(手を繋いで歩きたい…。でも…もうバイバイしないといけないなんて…)」
「なぁミク…中まで送ってくれないかな?」
「えっ?う…うん」
ミクの頭は裕介が好きな気持ちでいっぱいだ
しかし、その気持ちを伝えれない
「ちょっと寒くなってきたね(今すぐ私を抱きしめて!…なんてね。そんなこと言えない)」
そんなこと考えながら涙をこらえた
「あっ雪だ」
「えっ?」
暗くなった空に白い雪が降り注ぐ
駅前の大通りでカップルが「ほらみて!初雪!」としゃべっている
「寒いのに元気だね!(裕介とあんな風になりたかったな…)」イルミネーションで彩られた木々を見ながら思う
「そうだ、写真撮ろっか」
「うん…」
裕介が離れることがわかっているので幾分元気がない
「笑顔で撮ろうよ!」
「あっ…!」
裕介はミクの肩を抱き寄せた
「裕介…」
ミクに少し笑顔が戻る
「…次いつ戻れるか分からないからな…。お前との思い出作りたくてさ」
「裕介らしいね」
2人は笑いながら駅のホームへ行く
ホームへ向かうと次第に笑顔は消えていった
「ミク…泣いてるのか?」
「泣いてないよ!」
泣きたいのをこらえて言った
そのとき、ミクのほっぺたに雪が落ち、溶けて消えていった
まるで涙の様に流れた雪はミクの涙の代わりのようだった
「(どうしたら手編みのマフラー渡せたんだろ…)私の意気地なし…」
小声で自分にぶつける
「(本当は怖いだけ…)」
思いを胸に隠していたが
「裕介がいつか遠くへ行ってしまうこと心のどこかでわかってた…」
ミクは思っていたことを裕介に言う
「ミク…」
しかし時間は残酷だ
電車がホームに入った
「…行かなくちゃ…」
「そんなのわかってる…裕介が優しいのも知ってる…」
ミクは裕介の手を握って離さない
「ミク…この手を離してよ…」
「裕介…出会えて良かった…!裕介が…好き!」
「ミク…」
裕介は驚いた顔をしている
「ありがとう…さようなら…」
ミクは泣いていた
「ミク…ありがとうな」
「裕介…あのね…」
ミクが言いかけた時2人の唇の距離は0になった
ミクは涙をいっぱい流した
初めてのキスは涙の味がした
裕介はミクを強く抱きしめた
「お願い…今だけぎゅっとしていて…」
「あぁ…」
しかし、電車の発車のベルがなる
「これ!」
ミクは手編みのマフラーを渡す
「大切にするから!」
電車の扉が閉まり電車が走り出す
「裕介!」
ミクは走り去る電車を追いかけた
「裕介…!」
ホームを後にする電車の背を見ながらつぶやく
「来年の今頃にはどんな私がいてどんな君がいるのかな」
そんなことを想像しながら笑顔で帰っていった

ー5年後ー
「今日のご飯大丈夫かな?」
「あぁ!おいしい!」
「良かった!」
「お前とはこの指輪で誓ったからな」
指輪をキラッと見せる
「うん!」
ミクも指輪をキラッと見せた
2人は結婚したのだ
一年前に籍を入れた
2人はテレビのアーティスト紹介を見ながら話す
「ミクはアーティストの夢、叶うよ。絶対」
「うん!頑張る!」
「おっと、そろそろ仕事行かないと」
「行ってらっしゃい!」
ミクは裕介を見送る
「今日は色々しないと!」
ミクは掃除をしたり食器洗いしたりする
「今日は何がいいかな?」
今日の晩御飯を考える
その時電話が鳴った
ミクは電話を取って話を聞いたとたん受話器を床に落とした
慌てて着替え外に行く
「嘘…嘘に決まってる…」
走って病院に着く
看護婦に事情を説明し部屋へ案内してもらった
部屋に入ると包帯で頭を覆われ点滴された裕介がいた
心電図のモニターが規則正しく鳴っている
裕介は仕事に行く途中トラックに引かれたという
「もう意識は戻らないかもしれません」
看護師から非情とも受け取れる一言が伝えられた
「そんな…。裕介…目を開けて…。お願い…」
そんな願いも虚しく、ただ時間だけが過ぎていく
「裕介…」
裕介の手を力強く握りしめ祈った
気付けば看護婦は部屋から出たようだ
しばらくすると裕介の顔がミクの方にゆっくり向いた
「裕介…?」
「ミク…」
「裕介…!」
裕介はミクの手を握りしめて言った
「ミク…今までありがとうな…」
「裕介…何を…」
「愛してる…」
裕介は少し笑顔を見せたように見えた
その瞬間、モニターが騒がしく鳴る
裕介の手は力無く落ちた
ミクには何がなんだか分からない
看護婦が慌てて部屋に入り心肺蘇生を始める
「裕介…裕介…!?」
目まぐるしく時が流れる
耳障りな音と看護師や医師の声が飛ぶ
ミクはその後の記憶がない
気付けば家にいた
それからというもののミクは引きこもってしまった
裕介との思い出をずっと考えていた
裕介はいつも優しく微笑んでいた
「あの日、帰る途中、君と2人笑いながら手を繋いだよね…。…ずっとずっとこんな時が続くと思っていたのに…」
2人のアルバムを眺めながら思う
ミクは裕介が最後に言った「今までありがとう」がずっと頭の中で鳴り止まない
「裕介…」
ミクは会いたくて声にならない声で裕介の名前を呼び続けていた
「悲しいよ…苦しいよ…私だけの夜だなんて…怖いよ…」
ミクは夜空を見上げ戻るはずのない裕介を探す
空に手をやると指輪が目に入る
ミクは裕介がくれた指輪を今も付けている
裕介がミクに誓いをかざした宝物
2人の最後の絆
「裕介…遠い遠い世界で今も指輪を付けてくれているの…?」
ミクは裕介に伝えきれない悔しさでいっぱいだ
思いを呟くうちに裕介との会話を思い出した
「いつか…いつか裕介に伝えたいと思っていた気持ちはずっとずっと私の心の中に眠っているままで…どこかで私を見守る裕介に届くように…歌うよ…!」
アーティストになる夢
ミクは悲しみを乗り越える決意をした
裕介との約束を守るために
「会いたくて会いたくて、声にならない声で…君の名前を呼び続ける…悲しくて、苦しくて、1人の夜が怖いから、夜空見上げて…」
裕介との最後の約束を守る為に歌う
「大好きな君のことをずっと忘れないよ、移り変わる景色の中でも…」
ミクの目からは涙が溢れる
「最後まで言えなかったこの言葉を君に贈るよ、君のことずっと…愛しているから…!」
ミクは思いの丈を歌に綴った
裕介が微笑んでくれていることを信じて

数日後、ついに裕介の葬儀の日がやってきた
「向こうはどんなところなんだろうね?着くまで時間がかかるみたいだから無事に着いたら便りでもほしいよ」
ミクは亡くなっても裕介を大切にしている
火葬場が開き葬儀の準備が行われる
ミクはこの葬儀を"音楽葬"にすると決めていた
自分の歌声を裕介に届けたい一心で
悲しい日に似合わず今日は綺麗な晴天だ
なんと言っても今日はお別れ日和なのだから
ミクは心の中で裕介との思い出に浸り、裕介が自分の人生を赤く色付けたようなたおやかな恋だったと思い、涙を流す
そして裕介が火葬場に入る前、ミクはマイクを持ち裕介の前に行く
彼女の"音楽葬"が始まる
「またいつの日か、出会えると信じ合えたら、これからの日々も変わらずやり過ごせるね」
裕介が入り火葬場の扉が閉まっていく
「扉が閉まれば、このまま離ればなれだ、あなたの煙は雲となり雨になるよ」
ミクは涙が止まらなかった
時々声が震える
そして最後のフレーズを言うところで止まってしまった
完全に泣き崩れてしまったのだ
葬儀に参列した知人も涙を流し見守っている
「やっぱり…つらいよ…」
頭の中で裕介が動いている
このフレーズを言ってしまえば裕介が消えてしまうような感じがした
ミクは裕介が残した最後の言葉を思い出した
裕介の最後の言葉
もしミクが裕介に最後に伝えるなら同じことを言うだろう
だけど違う
いつか会えることを信じているから
「伝えなきゃ…まだ…最後じゃないから」
ミクは涙を拭いながら立ち上がる
「裕介…」
大きく深呼吸をして最後のフレーズを言う
「さよなら…」
ミクの涙が指輪に落ちる
火葬場の扉がついに閉まった
「裕介…指輪無くしたらダメだよ?」
ミクは裕介を見送り、笑顔でつぶやいた
ミクは前を向き歩き続ける
裕介との約束を守るため
そしていつか会えることを信じて…


第1部 メルト
第2部 初めての恋が終わるとき
第3部 Dear
第4部 サイハテ

[次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!