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ガラスの靴と、王子の尋ね人

 人々がたくさんの露天を出し、たくさんの人が品物を求め、はたまたどこか目的地へと向かうために行き交う、おとぎの国ワールド一番の大きな通り。その通りはもちろん、今日だって活気付いています。
 その通りを一人の男の人が歩いていきます。人々は彼が通り過ぎる度に振り返ります。彼は人々に声を掛けられる度、笑顔で手を振りました。幾度繰り返されても嫌な顔一つしません。だからこそこの国は繁栄をするのです。人々を想う王族が居て、そして人々はその王族に全幅の信頼を寄せているのです。
 そして、人々の注目を一身に浴びるそんな彼の手には、美しい透明な靴がありました。
「ああ、すみません」
 この国の王子である彼はふと足を止め、果物売りの少女に声を掛けます。少女はあんぐりと口を開けたあと、どもりながら挨拶をして、ぺこぺこと頭を下げました。
 王子はその様子にくすくすと笑います。そんなに可愛らしい反応をされると困ってしまう、とさえ言って肩を竦めました。
「す、すみませんっ」
「いえ、可愛らしいことは何も悪いことではありませんよ。それで突然で悪いのですが……この靴を履いて頂きたいのです」
 確か貴方ぐらいの背格好だったんです。そう小さくぼやいた王子の言葉は、周りが王子の様子を不思議そうに話す声に掻き消されました。

 ◆

 王子は先日の舞踏会で共に踊った少女のことが忘れられませんでした。そして王子はこう決意しました――自らの手で探し出す、と。
 あの日の舞踏会の記憶は曖昧でした。それは誰に訊いても同じことで、王子は途方にくれたのです。
 共に踊った少女についても、同じように曖昧な記憶でした。
 しかし王子は、少女と共に踊った感情だけは忘れていなかったのです。胸が躍るような、そして満たされるような幸福感を。
 だから王子は今、こうして少女を探すために動き出したのです。そして少女を捜し求める道筋は、だんだんと彼女へと近付いていきます。
 そう、少しずつ――しかし、着実に。


[まえ]

あきゅろす。
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