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僕らの場合
6‐2


「ビビんなら初めからケンカ売んなよ」


オプションで両手を上げてみせたが、これは良くなかったらしい。

ネコは馬鹿にするなよと噛みついてきた。


「び、びびってないし!!だいたいアンタに教える名前なんてない!早く出てけよ!!てっ君帰ってきたときアンタいたら邪魔だもん!!」


ネコは耳をつんざかんばかりのキンキン声を出す。

これもあまり趣味じゃないなあ、ネコには可愛く鳴いてほしいのに。

悲鳴出すみたいに声出すなよ。そうするぐらいだったら泣けばいいのに。

ネコは結構弱い人間なんだな。

にこりと笑って見せるとネコはヒステリックな声を出すのを止めた。

なかなか聡いみたいで、その反応に俺は嬉しくなる。


「何だよ……」

「哲はたぶん帰って来ないよ」

「嘘、言うな」

「嘘じゃない。それに今日だけじゃないんだろ?一人にされるの」

「何も……知らないくせに」

「知ってるよ。バイトの後はいつも女のとこ行くから。つうか終わる時間、夜中の一時だろ?それまで一人でいるつもりなのかよ」


俺が尋ねるとネコは黙る。

だんだんと暗くなってきて、ネコの顔がオレンジ色の西日に照らされた。全部が同じ色に染まったせいでネコの顔の形が良く見える。

ネコは戸惑っていた。

あいにくパーツ一つ一つを褒め称えるほどの語彙力はないけれど、そんな表情をしていてもネコの顔が整ってることが分かった。

哲が浮気する相手なわけだから不細工なはずがない。あえて言うならまあカワイイと美人を足して2で割った感じだろう。

あまりじっくり見る機会がなかった分も見ていると部屋が暗くなる。

街の光があるので真っ暗とまではいかない。そうして一時間ぐらいたったのだろうか。

ネコの目許で窓から入り込むネオンにきらりと光るものがあった。


「俺、秋吉達也。良かったら飯食いに行かない?」


薄暗いなかネコは何も言わないが、俺はそれを肯定だと受けとって、ネコの手を優しく取る。

触った瞬間に少しだけネコが震えた。


「――なあ、ここ暗いし。楽しいとこ行こう?」


ゆっくりと手を引けば気落ちした様子のネコがついてきて、俺は鍵もかけずにそこを出た。

――ちなみにこの何時間か後にネコの意識が正常になったとき、ネコは有り得ないほどの叫びを上げる。









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