僕らの場合
5
何日か前に哲さんがまた浮気相手を倉庫に連れてきた。
しかも相手は男。
達也さんが怒るときは大抵浮気相手が男のときだったから、倉庫は当然ピリピリした。
そして信じられないことが起きる。
達也さん、捨てられたんだ。
相当ショックなのかしらないけど、あの日から何だか酷く嬉しそうに笑っている達也さんは見ていて痛々しい。
そんでもってやっぱりちょっとズレていて、今の状況気付いていない。
あの日から、皆の達也さんを見る目がすっかり変わったのに。
いい加減出て行けよ、まだ居たのか、捨てられてダセェ、お遊びだったのに勘違いしてイタイ野郎。そんな負の感情が取り巻くなか、達也さんは今もソファにうつ伏せに寝そべっていた。
「ヤバいですよ達也さん。哲さん怒らせたら何されるか……」
声を潜めて言うと達也さんはうるさいと一言漏らすだけで、動こうとしない。
あんなに派手に言い返して何もないはずがない。いつ哲さん派で達也さん嫌ってるヤツらが動きだすか、それを心配してたらいつの間にか周りに人が集まってた。
真剣な顔してて、あんまり良い雰囲気じゃないって俺でも分かる。
急に黙った俺に流石に異変に気付いたのか、達也さんは寝返りをうつ。
それから眠たげに目を擦って伸びをした。
「清水、モテモテじゃん」
「いや!違うでしょどう考えても!!!」
ボケる達也さんに状況も考えないで思わず全力で突っ込むと、くつくつと達也さんは喉を鳴らして笑う。
それからゆったりと身を起こした。周りに突っ立ってるやつらは黙ってそれを見るだけで無気味だ。
こんな時でも悠長に欠伸してる達也さんが少しだけ羨ましくなった。
「で、何か?」
それでも達也さんが目を細めた瞬間、ぐっと空気が重くなる。
この人、本当に掴みどころがなくって良く分からない人だ。
それは周囲もそう思ったみたいで、少し躊躇してから一人が口を開いた。
「哲さんのこと、いいんですか?」
なんだ、その話か。
てっきり出てけ的な話されるのかと思ってビビってたけど、こいつら達也さん側だ。
哲さんの名前と心配そうな周りの顔に俺はホッとした。
そもそも動じていない達也さんはちょっと口の端を持ち上げて寂しそうな顔をする。
「最近、アイツの方がここに来ないよな」
「それは……!哲さんが悪いんだから勝手に気まずくて来れないだけですよ!!達也さんのせいじゃ」
「哲が気まずいなんて思うわけないさ。来ない理由は哲にしか分からない。ただ、もうすぐだよなあ」
「何がですか?」
遠い方を見て笑う達也さん。
なんだか希望にすがるみたいに目を細める。
それから一言、もう七日たったんだと呟いた。
熱のこもったその言い方に、なんだか胸が締め付けられる。
やっぱり、この人まだ哲さんのこと好きなんだって痛いほど感じた。
今の達也さんを見て何かしら思ったのは俺だけじゃないらしく、周りも沈痛な面持ちで黙ってしまう。
結局ふらりと達也さんが倉庫を出て行くまで、それ以上二人のことは会話に上らなかった。
そして俺は、この時達也さんを止めなかったことを死ぬほど後悔する。
だってまさか、あのまま達也さんが行方不明になるとは思わないじゃないか。どうして止めなかったんだろう。
どんどん不機嫌になっていく哲さんに、ああこの人は本当は達也さんのこと愛してたんだと気付き、あの日達也さんを行かせてしまった時から、俺の頭の中から後悔の文字が消えたことはなかった――。
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