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僕らの場合



あれから何日かあと、俺はほとんど毎日ってほど倉庫に入り浸っていた。

いないのは風呂行くときぐらいだったと思う。

学校はサボり。正直、俺の学力ヤバいんだろう。

バカとか俺、超カッコ悪い。
自嘲気味に笑ってみせるとずっと俺の側から離れないでいた清水が少し顔を顰めた。

何情けない顔をしているんだ。聞こうとした瞬間、倉庫の出入り口の方がざわついた。

――ああ俺、これを待ってた。

哲さん、と清水が呟く。見ると確かにあの猫ばばクソ野郎を連れた哲がいる。

腕にへばりついているネコ――猫ばばクソ野郎じゃ長いから今からこいつはネコな――の腰だいて、無表情っていうか睨むみたいな表情だ。

また俺が哲のことを殴るんじゃねえか。そんな不安や怒りの目が次第に俺に集まってくる。

視線から音がしたら今たぶんガリガリ言ってそう。
ちょっと面白くて口だけで笑うと不穏な空気が倉庫に流れた。

何だろう。見まわすと哲が俺を睨みつけている。

凄く不機嫌そうだ。

口元だけは笑ってて、よけいに凄みきがきいている。

俺が視線をちょっとずらすと、哲の頭一つ分下で、あの時みたいに優越感バリバリ感じてますって顔をするネコが。

腰にシナつくりながら目を細める。そんな様子にゾクっときて、俺は身を強張らせた。


「達也さん……」


清水が心配そうな声を上げた。

哲が歩いてくる。

ネコの腰抱いて。

ネコは尻尾振るみたいに腰くねくねさせて、首触ってやったら今にも喉鳴らしそうだ。


「何時までンな場所いんだよ達也ァ……」


哲が俺の前に立ってそう笑うとネコも笑った。軽くて鈴鳴らしたみたいな音してて、俺はそれに目を閉じる。

声が聞きたいなあ。聞けたら幸せだろうな。
そればかりを考えていた。


「いい加減目障りだ。消えろ」


哲が冷えた声を出す。
俺はこの瞬間正式に哲に捨てられたらしい。
ネコはそれを聞いて嬉しいのが押さえきれないみたいな声を出した。


「てっ君そんな事言ったら可哀想だよお?」


それは予想以上に甘くって、重なって盛ったネコの声が聞こえそうだった。
俺はネコの声をまた聞けたことが嬉しくて、なんだか涙まで出てきてしまう始末だ。

情けない。

一目惚れとかないと思ってたのに、セックスしてるネコを見ただけでこんなにも嵌まってる。


「哲さん!!達也さんは――」

「清水、黙ってろ」


余韻を消すな。俺は何か言いたそうな清水を睨みつけて黙らせる。それから真っすぐとネコを見た。


「哲。俺はさあ、別に哲のためにここにいるんじゃない。それに、ここの王様が哲だって思ったことはない。だから俺はここから出て行かないよ」


だって出て行ったら、ネコに会えなくなるじゃねえか。

ネコの隣で哲が俺のこと殺しそうな目で睨みつけてきた。
ネコも負けず劣らずな感じで俺を睨む。笑ってくれた方がイイのになあと思っていると、隣で清水が息を飲む音が聞こえた。


「俺がいつここを出て行くかは、俺が決める。だから哲、俺のすることに指図するなよ」

「テメェ……」


哲が怒っている。

いつのまにか倉庫も静かになっていた。

全員が哲の次の行動に、息を殺して怯えていた。
半分はちょっとした見せもの見るみたいに何かを期待した眼差しだ。

俺、殴られるかもなあ。

そう考えていると急に哲が喉を鳴らし始める。

倉庫にいる全員、裏切られたみたいな顔をした。


「いいぜ達也、お前の好きにしろよ」


その代わり、どうなっても知らねえから。
悪役笑い浮かべる哲。それにうっとりしているポーズを取りながらも怯えを隠せないでいるネコは最高に可愛い。

うん、好きにするよ。

俺、お前のネコを奪うから。

にこりとネコに笑いかけると威嚇しそうな目で睨み返された。







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