僕らの場合
3
哲さんと達也さんが付き合ってるって、結構知れてた。
男同士とかマジ気持ち悪ィって言うヤツも多かったけど、それでもココから人が居なくならないのはそれだけ二人がスゲぇってことだ。
二人ともめちゃくちゃケンカ強いくせに、ホモキモいだとか言われても相手にしないで鼻で笑ってて、その姿はなんか格好良かった。
器のデカさの違いっていうやつだろうか。
俺は特にいつも飄々としてる達也さんが好きだ。
それが最近になってその達也さんの様子がおかしい。
原因は分かってる。
哲さんが浮気してるせいだ。
達也さん初めは怒ってたけどもう最近は諦め気味。
しかも浮気止めない哲さんのせいで、いつのまにか仲間内で達也さんは遊ばれてるって噂が流れてて、最近達也さんの立場はちょっと不安定だ。
元々威張ってる感じの人じゃないけど、達也さんは尊敬されてる哲さんといつも一緒にいるってだけで嫉妬とか恨み買ってたから。
気にしてないけど本人もそれには気付いてるみたい。
でも、達也さん一番重要なことが見えてない。
嫉妬とか恨みとか、マイナス感情の目で見られること以上に下心ありの目で見られてるって。
だから今日も無防備にAVなんか見てやがる。
眉根寄せて、辛そうに。
今は一応、哲さんと付き合ってる状態だから大丈夫だけど、哲さんがOKサイン出したらこの人マワされるんじゃねえの?
ちょっと不安に思いながら俺は声をかけた。
「何してんですか達也さん?」
「見て分かんねえのか?AV見てんだよ」
いや、見りゃ分かりますよ。
俺が言いたいのは哲さんと今日会う約束してたくせに、なんでココで一人AVなんか見てんだよってことで――。
「や、それはそうですけど。……哲さんは?」
「俺の家で知らない野郎とエッチちゅー」
画面の中では女が股開いてアソコ舐められてる。
そんなもんガン見しながら溜め息とか吐かないでほしい。
結構ヤバそうな表情だけど、哲さんと会えなくて悲しいのか溜まっててキツいのか判断つかねえ。
なんとなく達也さんに視線集まってるのを背中で感じて、俺も達也さん見て唾飲みこんじまった。
「たっ、達也さん!!止めなくていいんですか?」
キーボードに鼻先くっつけて目を閉じる達也さん。
なんか、首筋から変なフェロモンでも飛ばしてんだろうか、エロい。
これでAV見てなかったら同情するだけだけどこんな状況だ。
哲さんに浮気されてる分、やっぱこの人も足りないんじゃねえかって思ってしまう。
でも次の瞬間聞こえた泣きそうな声に、俺はバカなこと考えた自分を殴りたくなった。
「言って止める男じゃないじゃん。今までもこれからも――」
声震えてた。すっげえ切なそうだ。
やっぱこの人、哲さんのこと好きなんだ。
マジなんだ。そう思わずにはいられなかった。
「だからって……!!またココに連れてきちゃってもいいんですか!?」
「清水――!!」
なんか無性に悔しくなって、この人責めても仕方ないのに大声出してしまった。
達也さんも負けないぐらい大きく叫んだ。
ゆっくりと顔を上げる。
泣きそうな、壊れそうな微笑みを浮かべていた。
「達也さん……」
優しい声で達也さんは言った。俺、何にも礼を言われることなんてしてないのに、ありがとうって。
まるで壊れもの扱うみたいな手つきで俺を撫でる達也さんを見て、俺は心の底から哲さんを呪いたい気持ちになった。
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