僕らの場合
7‐1
飯を食おうと言いながらも結局ネコを連れてきたのは家から離れた場所にあるクラブだった。
それほど大規模なところじゃない上にまだ開店前で、客はいない。しかもオーナーの気分で休業もするかなり適当な場所だ。
いわく金持ちの道楽だそうで、この不況に羨ましいな、とかカウンター席で俺が言ってみる。
バイトの和久さんが生意気言うなクソガキって笑って、俺も一緒になって笑ったけど、ネコは馬鹿みたいに泣いてるだけだった。
「で、その子はどうしたの?達也に泣かされた?」
「俺、カワイイ子こんな風に泣かせねーし」
「名前は?」
「ネコ」
にっこり笑うと和久さんははぁ?意味分かんねえって顔を顰める。
でもネコが無言だからそれ以上は聞こうとしないで、ただ酒を用意してくれた。
「これ甘い?」
「甘い甘い。すっげー甘い」
「ネコ、これ甘いって。甘いの好きだろ?」
もちろんネコの味覚なんて知らないが、勝手にネコは甘いものが好きそうと判断した俺は、泣いてるネコの口元にグラスを持ってった。
傾けても口閉じたまんまでちょっとだけ零れそうになる。
薄い唇を横から突っついてみたけど無反応。仕方ないから俺は一人でそれを飲んだ。
「お前……ソレそいつのためじゃねえのかよ」
「だって和久さん、ネコ飲まないんだもん」
「ネコなんだろ。放っておけば飲むさ」
和久さんはそう言うと新しく作った青いカクテルをネコの前に置く。
無理に飲まなくてもいいから。基本的に誰にも優しい和久さんはネコにそう声をかける。
今まで無反応だったネコが少しだけ頭を下げた気がした。
猫ばばクソ野郎のわりには礼儀正しい部分もあるらしい。なんとなくネコを見直した俺は、後ろ髪を梳くみたいに撫でる。
しばらくするとネコはちょっと嫌そうに俺の手どけて、大人しくカクテルをちびちび飲み始めた。
中身を警戒しながら舐める様子はネコそのもの。でも縮こまってしかも俯いているから飲みづらそうだ。
俺は和久さんを呼んで顔を近づけるとちょっとの優しさと八割以上の下心からストローと、アルコール度数の高い甘いのを注文した。
「こっちのが飲みやすいよ」
いったんグラスを置いてキョロキョロしていたネコに、俺は新しい方を進める。
ネコはちょっと睨んできたけれど、強引にグラスを交換しても何も言わない。
ネコはたぶん飲みなれてない。しかも今は甘い味に油断している。
奪ったカクテルを飲みながら、期待を込めて横目で伺うと、案の定だ。
ネコは受け取ったものをバカ正直にストローからごくごく飲んでいた。
和久さんはちょっと心配そうにしている。
いくら道楽の店といっても、オーナー不在の時に未成年者が急性アルコール中毒で病院運ばれたら最悪だからな。
まあ一杯二杯じゃあ大丈夫だろうけど、俺もネコに倒れられるのはごめんなのでやんわりと止める。
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