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侵入者


好きだ、恭弥……おまえが好きだ…





あれから、ディーノのあの言葉が僕の脳内をぐるぐる回って一向に消えようとしない。
一方の彼は、ここ暫くの間全く姿を現さなくなっていた。
初めて言われた"好き"と云う言葉に、そんな感情を一切知らない僕は其の意味を自身で追求していたが、其れは一向に解決する事はなかった。
好きって何?どういう事?僕が並中を好きなのと同じ?
どういう意味の好き?
そんな事ばかりが頭の中を駆け巡り挙げ句溜め息までも零れる程であったがやがて辿り着いた答えは、僕からすれば彼はただの草食動物、それ以外の感情を抱いた事はない、だから僕が考える必要も気に止める必要もないんだと云う事だった。
それでいいんだ。
でも何故か、胸の中の小さなくすぶりが減る事はあったが消える事はなくそう例えるならば赤く燃える火が消えこそはするが火の粉がいつまでも揺らめきながら舞い上がる様だった。


そんな時、だった。
此方に向かってくる足音が、僕の耳に入ってくる。応接室付近は風紀委員以外が通る事なんて滅多にない。
足音は応接室の前辺りで止まったが、扉がノックされる事はなかった。風紀委員は全員、応接室に入室する際は必ずノックするようにとの指示を草壁にさせている筈だし、仮にノックをしない連中が居るとすれば僕に咬み殺されるが故に今までそれに構わずに入室して来る者なんて誰一人居なかった。
そして、ドアノブがゆっくりと回転して行く。
刹那、僕はトンファーを懐から出しながら音も、時間も、自身以外全てが無に近しい存在と成る程に素早く扉の元へと移動し、侵入者の首筋にトンファーをあてがった。


「誰」

「や…やだなぁ、雲雀さん。俺ですよ…」

「沢田…綱吉」

「それ、下ろしてくれませんか?」


キッと睨み上げた僕の目を怯える表情で見ながら、焦りを交えた微かに震える声で僕にそう言い、彼の指図なんて聞きたくなかったがこのままだと話にならない様だったので仕方なくトンファーを下ろした。
それでも、沢田綱吉を睨み付ける僕の瞳は変わらない。


「何の用。君、勝手に応接室に入って来てただで済むと思ってるのかい?」

「俺、見てたんですよ?雲雀さん…」

「何を」

「屋上でディーノさ…」


クスクスと嘲笑いの様な笑みを零しながら言う沢田の言葉を途中で遮るかの様に、僕は先程と同じ様にトンファーを沢田の首筋にあてがい、「黙れ」と低い声で呟く。トンファーによって顎を上に上げる沢田だったが、見下ろす目がまるで僕を見下しているかの様だった。
そして、先程までの怯えた沢田綱吉とは別人で、今の沢田綱吉は目つきも声色も、性格までもが打って変わっていた。まぁ、いつもの沢田は演技なのだろうけれど。


「それ以上言うと咬み殺す」


僕は、憎悪を含めた声で沢田に言った。
彼は首筋に凶器をあてがわれているのにも関わらず、僕を見下ろしながら口元に弧を描く。
僕はトンファーを、下ろした。
すると沢田は僕に顔を近付け、「雲雀さん、最近ディーノさんと仲良いですよねぇ…」と僕の顎に手を添える。


「あんなに群れるのを嫌っていた並中の風紀委員長様が群れているなんて……嫉妬しちゃうなぁ」

「違っ……僕は群れていない!」

「ああ…それとも手懐けられているのかなぁ…?」

「うるさい!違う!」


彼が耳元で仄めかしく艶やかな声で囁き身震いする程の甘い刺激が脳髄に伝わるよりも真っ先に、その前に僕は彼をドンッと突き飛ばしたが、彼は少し後ろに下がっただけで足をよろめかす素振りさえも見せなかった。
それ所か、唇の両端を引き上げうっすらと気味の悪い微笑を浮かべる。


「じゃ、俺もう行きますね。ばいばい、きょうや」


沢田はそう言って去って行った。

沢田が去ったその後も、僕の眼には、脳には、身体には、沢田のあの微笑と嘲笑を含めた声、蔑む様な眼が確りと焼き付いて離れず僕は両手で頭を抱えた。
群れる?僕が?此の、僕が?
どうして?何ノ為ニ?
違う。違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!
僕は群れが嫌いだ!大嫌いだ!
互いの傷を舐め合い縋り合うだけの哀れな弱者なんかに成り下がるものか、僕がただ草食動物の群れに求めるのは悲痛な叫喚と飛び散る肉片、そして真っ赤な鮮血に酷く裂かれた傷痕、その光景を嬉々とした表情で見つめる僕の眼に映る助けを乞う醜い草食動物の姿それだけだ。
つまりはグチャグチャに咬み殺せれば、その快感を味わえる事が出来たならそれでいい。
僕は、群れてなどいない。
ディーノはただの目障りな草食動物。
そう、ただそれだけの事じゃないか。



沢田綱吉を咬み殺す事が出来なかった事への悔しさもあったが、何よりも沢田のあの言葉が余りにも屈辱的で、僕は何処からか湧いてくる沸々とした怒りと憎悪の矛先をその辺の草食動物に向ける事にした。




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