和佳ちゃんは頑張ってくれた。
あとの三体は和佳ちゃんがかっこよく片付けれてくれたのだ。
え、俺?
もちろんただ見ているだけ。
俺も体の中に手を突っ込んでみようとするも、ガスガスと胸にパンチするだけで終わってしまう。
和佳ちゃんのおかげであと一体だ。


「ごめんな和佳ちゃん。俺、何もできなくて」


「良いんですよ、彰時さんはわたしが守ってあげますから」


その眩しい笑顔が罪悪感を作っていく。
女の和佳ちゃんに任せて男の俺は何をしているんだ。
普通は逆だろ、俺。
十字の廊下に出ると、左側に目をやると何やら黒い影が。
きっとあれが最後の無魔だろう。


「彰時さん、行きましょう」


「うん」


頷いてから彰時は左折した。
そのまま歩いていくが、さっきまで前を歩いていた和佳が前に出ない。
それに、足音も一つしかないように感じる。


「和佳ちゃん。…和佳ちゃん?」


後ろについてきていると思っていた和佳はいなく、あったのは虚空のみだった。
あの時の鬥浪の言葉が脳内で何度もリピートされる。

『絶対に別行動はとっちゃダメだよ』

別行動とっちゃった☆
いやいや、☆とかじゃなくてヤベーって。
俺は武器とかなんも出せねーのに。
不意に。

──ガタンッ

思わず肩が跳ねる。
この音はどうやら教室の中から聞こえてきたらしい。
彰時はゴクリと唾を飲み込み、意を決して教室の戸を開けた。


「た、たのもぉぉぉ!!」


だが、教室内は彰時が出した声のみがあって他はいたって普通の教室であった。
彰時は拍子抜けしたように「へ?」と声を出す。
おかしいなと思いながら教室内に入る。
完全に教室内に入ってしまってから戸が壊れるくらいの勢いで戸が閉められた。
さすがにこれにはハンパなく驚いて「おぎゃあ!?」と叫んでしまう。


「何だ!?」


振り返って閉めきられた戸の取っ手に手を引っ掻けて開けてみようと試みるも、びくともしない。
閉じ込められたと認めざるおえないだろう。
すると、後ろからねっとりとした粘っこい視線を感じた。
恐る恐る振り返るとそこには。
操り人形のような無魔がいた。
無魔はケタケタと不気味に笑い、彰時は恐怖の頂点に達する。
月という電灯がありながらもそれ以外の光源が見当たらない教室で怖がらない方がおかしい。


「う…、うあぁぁぁぁああああ!!」


彰時はもう一つの戸に向かって駆け出した。
机にぶつかってせっかくきれいに整頓されていた列が乱れていく。
中には倒れてすごい音をたてた机もある。
もう一つの戸の取っ手に手をかけて引くも、びくともしない。


「くそ…、くそくそくそっ!!」


後ろからゆったりと近付いてくる無魔に恐怖が募る。
尻餅を突きながら後ろへと後ずさって逃げていくが、もう逃げ場はない。


「だ、誰でもいい…助けてくれぇッ!!!!」


その時。
リィンと左下の方から鈴の音が聞こえたかと思えば、左腕に今まで感じたことのないくらいの激痛を感じた。


「あぐっ…!?」


彰時の左手だけが勝手に動き出し、左手で光が集結し弾けた次の瞬間、左手は拳銃を握っていた。


「なん…っ、えあぐっ!?」


左手が彰時を引っ張り振り回すように動き出した。
力を入れているつもりもないはずなのに左手は無魔に向けて小さな火の玉のような銃弾を放つ。
十発くらい放ってから拳銃は光となって弾け、次は右下の方からキィンと金属の音が聞こえた。
今度は右手が勝手に動き出し、左手と同じような手順でナイフを取り出す。


「うおわっ!!」


月明かりで煌めいたナイフの刃の軌跡が白く見えた。
彰時は膝を付いているというのに、右手のナイフは高々と上げられ、無魔を真っ二つに切り裂いたようだ。
無魔が絹を裂いたような声をあげて消えていく。
右手は力を無くして床についた。


「は…ははは…、何だったんだ…今の…」


腰を抜かしてしまったようでたてない。
今のは俺がやったのか?
俺はなにもしてないのに、手が勝手に動きやがった。
両手を眺め、開いたり閉じたりする。
ちゃんと俺の手だ。
廊下から彰時の名前を呼ぶ和佳の声が聞こえた。




その後、意味もわからず駆け足で扉を通ると扉は跡形もなく消えていった。
二時間以内にこの扉から戻ってこないと現実世界に戻れないという。
これからは時間に気を付けよう。


「お疲れさま♪どうだったかな、初戦は?」


「意味不明だった。つか、五体だったんじゃねーのかよ!?」


「ちゃんと話聞いてた?五体程って言ってたよ。五体きっかりなんて誰も言ってないもんね」


ベッと舌を出してみせた鬥浪。
今度こそ殴ってもいいかな、いいよね。
それからニッと笑ってみせた鬥浪は彰時から和佳に目線を移して、表情を無くした。


「庵徠 和佳。お前は今日から“儚ヒメ”だ」


「“儚ヒメ”…、とは?」


「二つ名みたいなものって受け取ってもらってもいい。ちなみに娜乃羽は“操リ人形”。んで、お前は」


彰時を低い位置から指差した鬥浪。


「今日から“零憑キ”だ」


「“零憑キ”?」


「そ、“零憑キ”。これからよろしくね、“儚ヒメ”、“零憑キ”。それと、これから世界の平和のために頑張ろう」


「はい」
「はい」



こうやって始まった勇者としての俺。

“零憑キ”としての、俺。




舞夢学園屋上。
一つの影があった。
その影は月を見上げて、ぼんやりと呟く。


「無魔…、か」




To be continued


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