尾生の信


 雄太が兵庫に帰ってしまった。年末帰る、と言っていたそれは正月休みの一時帰郷なんかではなくて、本当の帰郷、だった。


「先月親父が死んで」
「聞いてない」
「言ってない」
「そうか…ご愁傷様…」
「葬式で帰ってんけど、やっぱり実家戻ることなった」

 なんて会話を二ヶ月前に、したような、気がする。よく覚えてない。


 仕事から帰ると毎晩一人呑んだくれている。深夜二時、人間が一番孤独を感じる時間。…って、なんかで聞いた。ほんとかよ、って思ったけど本当らしい。何をもってして本当なのか、どうやって調べたのかは知らないけど。雄太、雄太、雄太。酩酊したままかける電話。


「また呑んでんの、あかんよ、薬のんでんのに」
「いいの、へーきだから」
「また痛いって泣いても知らんよ」
「大丈夫」
「まだ寝えへんの」
「うん」


「ゆーた」
「なに」
「ゆーた」
「どないしてん」
「好き」
「…そっか」
「いつでも会えるって思ってた」
「会えるよ、おいで」
「うん、行く」
「泣かんで」
「うん」


 雄太、いつも黙って私を抱いて、強いね、いっぱい泣いたら強くなれるよって、頭を撫でてくれる雄太。雄太と居ると安心する、ずっと帰りたかった所へ帰ってきたような気がする、やっと会えたといつも思う。これはなんなんだろう。恋人でも友人でも兄弟でもない、大好きで大好きで、お互いのことがわかりすぎてしまって、だから向かい合うとお互いの身体がなんだかすごく邪魔でもどかしかった。


「もう女いんの」
「いないよ」
「女いたら私行かんよ」
「ならいても言わない」
「…なんでそんなこと言うの…雄太そんな器用なことできんの」
「わからん…ごめん、もう言わんから泣かんで」
「ばか…」
「ごめん、冷たくせんで」
「…できない」
「なんで」
「会えなくなって感傷的になってるだけかもしれん、どうせ好きって勘違いしてるだけ、かも、しれん」
「そっか」
「…ゆーた」
「なに」
「好き」
「うん」
「雄太みたいに私のこと救える人ほかにいない、どんな関係でもいいから死ぬまでなんかで関わってたい」
「そっか」
「死んでまた生まれたら雄太のお嫁さんにして」
「わかった」
「…適当言ってる」
「適当ちゃう」
「ほんとに?」
「うん」
「同じ顔で生まれてきてよ、見つけるから」
「わかった」


 馬鹿みたい。


「いい人できたらいいね」
「うん」
「それが一番うれしい」
「ありがとう」
「今生でどうにかなろうとは思わん」


 嘘ばっかり。


「私どーせ来世でも彼氏持ち」
「あかんよ」
「うん」
「ちゃんと選んで」
「うん」


 なんて乙女チックな約束。叶うわけないじゃん、ずっと好きなわけないじゃん、来世なんてあるわけないじゃん。馬鹿みたい。早く来い来い来世。



*prevnext#

あきゅろす。
無料HPエムペ!