帰郷


 東京で一緒に住んでいた男に女が出来たらしいので荷物をまとめて部屋を出てきた。

 約一週間の外泊をして部屋へ帰ると私の服やアクセサリーが全部しまってあった。流しの横には安物の雪平鍋が捨ててあり、女が肉じゃがでも振る舞おうと奮闘したのだろうか、真っ黒に焦げていた。和也は料理ができないし雪平鍋なんて持っていない。


 一緒に住んでいた、と言っていいのだろうか。正確には寝泊まりして炊事洗濯をしてやっていたら半年経っていただけだ。
 最後に作ってやったのは餃子だった。二人で深夜の料理番組を見ていて、和也が突然「あれを作ろう」と言って立ち上がったのだった。

 地元へ向けて走る鈍行の中、ふとそんなことを思い出していた。平日昼間の下り線、終点間近の列車には誰も乗っていない。



 木内とは駅前で待ち合わせた。私と和也と木内は同じ中学を出た同窓だ。地元で私が頼れるのは木内しかいない。仕事やアパートが決まるまでの間、置いてもらえることになった。


「で、どうした、なんで急に戻って来た」

 私は部屋の様子をことこまかく話した。鍋の話、そして私の持ち物がどうなっていたか。

「女だな、信じらんねえけど」
「だよね」
「つうかさお前らってそういう仲だったわけ」
「なにそれ」
「だから、」
「セックス?」
「そう」
「冗談でしょ」
「あいつ高校では彼女いなかったの?」
「いないもなにも、女友達私しかいなかったよ」
「堅えなあ」

 私と和也は高校も一緒だった。もっとも受験中はそんなことお互い全然知らなくって、入学式の帰りに玄関で会うまで気付かなかったんだけど。


「ああそうだ一回だけ――」
「うん?」
「思い出した、一回だけね、寝たのよ」
「和也と?」
「うん、いつも和也がロフトで、私はソファで寝てたんだけど。その日はなんでか、床で寝たの、二人で。手繋いで」
「それで」
「それだけ」
「それだけ?」
「そう」
「お前が?」
「お前がって…」

 あれは一体なんだったんだろうか。


「きっと和也の彼女は松たか子に似てて、強がりで、でも自分に正直で素直で、正義感があって頼れるけどたまに泣きながら笑ってみせたりするような女だよ」
「なんだそれ」
「和也が言ってた、理想の女のタイプ」
「へえ」
「で、処女」
「はあ?」
「結婚するまでセックスしないんだって」
「つか処女ってとこ以外は全部お前じゃん」
「はあ、どこが。全然違うじゃん」


 居酒屋でそんな話をしながら三時間も飲んだ後、うまいと評判のラーメン屋へ入った。木内はこの店の常連だ。
 私はビールと餃子を頼んだ。和也と作った餃子の方がずっとうまいに決まってるけど。



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