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泰楽と岩淵
いい友達ずっと友達、




「拓依はさ、誰か好き?」




それはあまりにも質素で幼くて正直な質問だった。小さな子供のような台詞を、とても綺麗な口から大人っぽい笑みで尋ねる。あまりにも不釣り合いのように思えるそれは、違和感すら感じない。何にもつっかえる事なく、するりと落ちた。詰まったのはこっちの方で、彼を、見た。彼は答えを促すかのような視線を突き刺すばかりだ。右手に持ったパックのイチゴオレに少し力を入れた。突き刺さるそれから視界を外し、ストローへ飛びついた。ズズズー、と空になりかけのイチゴオレは不平を漏らす。何かを諦めるかのように息をついた。視線はもう上げない。また痛々しく刺されたくなどない。ひしひしと窓に吹き付け軋ませる風は強い。




「なんで?」

「拓依にはそういう人いるのかな、って思ってね」

「そういう、ジュンはどーなんだよ…」




無邪気とは言えなくなってしまった僕ら。(とくに彼は無邪気という言葉が本当に似合わない。)それでも彼は無邪気に言葉を紡ぐ。まるで国語の授業の朗読のような落ち着きで。何かを諦めたかのように、息を吸った。手持ち無沙汰に空になったイチゴオレをびりびりと分解していく。興味なんて、聞きたくなんて、自分には全くないのだ。答えなんて発したくもないし、耳に入れたくもないのだ。それでも止まらない、いや止まってはいけないのだ。円滑な時間は、世界の理を無視など出来ない。ましてや塵のような存在が理を動かせるわけもなかった。情けない事に嘘は苦手で、無理につこうとすると直ぐボロが出る。とくに、こうやって親しみ馴れた相手だと余計に、だ。(とくに、こうした相手の内を見透かしてしまうような相手だと余計に、だ。)がたがた、と鍵の閉められた窓は冷たげに揺れた。まだ、まだ揺れるのは早い。最近風が冷たくてマフラーを常備したくなるほどである。風が入ってこないようにマフラーで首を埋めるのだ。




「んー…俺も今のトコ女の子はいいかな?」

「モテるのに」

「今は友達と居たいの」

「友達はいつでもいれるじゃん」

「拓依とかならずっと友達だろうけど、他はそうとも言えないでしょ?」




このタラシはいつになったら女に興味持つんだろうとか、友達と一緒に居たいのは今だけかよとか、俺ら以外の他って誰だよとか。そんな不透明な要素になんかに俺は興味などない。ぺっしゃんこになった紙パックをごみ箱に投げる。中身の無くなったそれは力なさげに、よろよろと落ちた。紙パックは弱々しくごみ箱の端に当たって外側に落ちた。的を得ない、それ、に溜息をついた。ひゅ、と横から飛んだ、ぐしゃぐしゃに丸められた紙は何物にも邪魔されることなくごみ箱に落ちていった。彼は笑って「下手になった?」なんて零した。




「うっせー」





いい友達ずっと友達、
残酷すぎて笑える




(一歩も動けない)

(その場から逃げる事さえも)



あきゅろす。
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