泰楽と岩淵
正直になれない時
そりゃあ家庭的な男の子(しかも高校生)なんて聞きゃ、あーそういうタイプかーってなるのくらいは自分でも解るし。
というかこのメンズファイブだってなけりゃ美形でもなんでもない普通のカテゴリーに入りそうな人間であることぐらい自分自身解ってる。
解ってはいるけど皆と比べて格下とか思いたくないし、あいつらも思われたくないものだと信じたい。
(一人でいると暇……かも)
最近トシは姫ばっかりだし、最近ナオはジュンとよく居るし、小次郎はもはやよく解んないし。
ていうかジュンは誰とでも居るけどさ。
あれ?俺あぶれちゃってない?生徒会メンバーの中でも大してライバル的な奴もいないし、女の子のファンって言ってもそんなんで困るのなんてトシくらいだし。
いやジュンも結構人気だけど。
あれ?俺ってもしかして寂しい奴なのか。
そうなのか。
(あ、姫とトシだ)
姫は嫌いじゃない、というより寧ろ好き。
ファイブの誰か狙いってわけでもないし、金も地位も興味ないみたい。
多分僕らが一番欲しかった友達みたいな女の子。
だからトシもやたら構っちゃうんだと思うし、そうやって心開いてくれたらいいなって思う。
女の子遊びしてるときのトシよりずっといい。
比べるまでもないくらい、トシには姫が必要不可欠なんだと勝手に思ってる。
だから、邪魔はしない。
諦めるとかじゃないけど、ほら、やっぱり友達だし。
俺は結構それもいいなって思うんだ、姫とトシが両思いでも友達でいられるならそれでいいかなって。
(なーんちゃって)
何考えてんだろ、俺。
こんなこと考えるとかどんだけ暇なんだよ。
あーあ俺ってばまじで寂しい奴。
姫とトシを眺めていたのを止めるてポケットに突っ込んでいた携帯を取り出して視線を落とす。
あ、やべ、今日近所のスーパーで卵安くなるんだ。
急いでいかないとなー、今日何作ろうかな。
昨日はカツ丼したし、今日は軽めのもんがいいよな。
てか、何なんだろ俺。
まじで主夫じゃん。
高校生らしくないよなー、暇だから今日の献立と買い物考えるってどうよ。
まぁ、作る人間が俺だからだけどさ。
なんつーか、
「…さみしーい」
「そうなの?」
独り言に返答されることほど微妙な恥ずかしさはない。
一人であると思って言ったのに、しかも出た台詞が寂しいってどうだよ俺。
後ろを仰げば済まし顔のジュン。
寂しいんだ?なんて上から落ちてくるそれになんかやっぱ恥ずかしい。
こんちくしょう気抜いて独り言なんて言うんじゃなかった。
照れ隠しになるか解らないけど、いつからいたんだよと視線を外した。
「さっき、かな」
「ナオはどーした?」
「お仕事だって」
「…ふ、ふーん」
携帯弄るのに夢中になるふり。
斜め上からは少し笑ったような空気と、質問は終わり?なんて上から目線の質問。
なんか余裕かましてるこいつがちょっとムカつく。
絶対こいつ俺とかナオとか下に見てるよな。
下ってかなんだろうな弟みたいな感じなんかな、ああもう解んねぇ。
小次郎は色んな意味で解んないけど、ジュンも解んない。
トシはまだ隠してますって感じで解りやすいし、ナオも演技とか下手くそだし解るけど。
お母さん的ポジションって言うんかな、こういうの。
多分そんな感じ、うん。
「拓依」
「なに?」
「俺今日の夕飯はアサリスープのパスタがいいな」
「なにその願望」
「手料理食べたい」
「板前さんに頼めば」
冷たい、なんて凹んだふりを真横でされる。
いやだって正直、パスタ買わなきゃなんないしアサリも買わなきゃなんないの面倒臭い。
横にしゃがみ込んだのを見下ろす。
なにその反応うざいんだけど。でもなんか珍しくジュンからの悪ノリが可笑しくてつい笑っちゃうじゃんか。
耐え切れなくて思わず笑ったら、それ見て見える片目も笑った。
この要らない世話焼きめ、と内心喧嘩売る。
けど今日は悪ノリに乗ってやるのも悪くない。
というか、悪ノリに乗った方が俺らしいしね。
「仕方ないなぁ、じゃあ買い物行かないとなー」
「ありがと」
わざとらしい感謝に、反抗したいくらいに機嫌が悪かったのに。
というか自分で気付かないくらいに機嫌が悪かったのに。
やっぱりジュンよく解んねぇよ。
なんとなく、上手く機嫌取りされて機嫌直したガキみたいで嫌なはずなんだけどね。なんかもうどうでもいいや。
感傷に浸るのも劣等感に苛(さいな)まれるのも、馬鹿馬鹿しいか。って思った。
正直になれない時
(ありがとう、は飲み込んだ)
(君の優しさには気付かない、フリ)
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