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夜道に光一つ(フレユリ)/梶原美月さんより


毎日一緒にいるとマンネリ化して、逆に飽きてくるもんだ。溜め息を吐きながらそんなことを呟いたのはフレンの大学仲間である。フレンを含む数人で昼食をとっていた彼らのうち、所謂彼女いない暦十何年の一人が理想の恋人だとか結婚だとか、かなり夢見るように語り出したのがきっかけで恋愛観の話で盛り上がった。
彼女持ちの絶賛リアル充実中な数人は、殆どが惚気の彼女自慢をし始めた。隣で苦笑するフレンは彼女持ちの扱いはされていない。学校内でフレンの事情を知っているのはかの胡散臭い教授だけであって、冗談でからかわれたりはするものの、曖昧に濁してきたからだった。

冒頭の台詞に戻ろう。つい最近、ふられたという打ちひしがれるその男は、何か悟ったような表情で夢見がちな彼らに力説する。

「一緒に暮らし始めて、やっとお互いの悪いところも見つかるってもんだ。しかも毎日同じような生活続けてちゃ飽きるだろ」

「お前の理想が高すぎるんじゃねーの?」

「そうそう、ちょっと飽きたら違う女、だもんなー」

「まぁ待て、お前らもいずれそうなるんだから経験者の話は聞いておけよ」

「何が経験者だよ。ただのチャラ男じゃん」

「俺は一途だから平気だし」

「生憎一途になる対象が見つかってないけど」

「うるせーな」

「まずこいつに彼女出来たのが意外すぎるっていうか」

「ともかくだ!結婚とかそんなんは甘い考えなんだっての」

フレンはペットボトルに入ったお茶を飲んだ。この人たちはいつまで続けるのだろう。

彼らの話を要約すれば、本気で共に暮らしたいと思うような相手でなければすぐに飽きてしまうとのこと。しかしそんなことを言っても、その時の勢いってものもあるし、暮らしてみなくてはわからない。だからこそ、一緒に暮らしても何かしらのスパイスは必要なのだと。
初めてそこでフレンが口を開いた。

「例えばどんな?」

「お、フレンも興味あるかそうかそうだよな、お前も男だしな」

「興味というか…少し気になることがあってね」

フレンが気にしていることというのは、勿論ユーリとのことだ。二人は共に暮らしてかなり長くなる。幼い頃からずっと一緒ということもあって、二人でいるのが当たり前、むしろ家族であると認識している。それ故に、恋人という関係になってからも大して変わり栄えのしない生活に、もしかしたらユーリは飽きてしまっているかもしれないと思ったのだった。
夫婦のような彼らにそんな心配は杞憂だというものだが、ここには指摘できる者はいない。フレンの内心を読み取れない男はさも自信ありげに言う。

「やはり付き合った当初の感覚を忘れないことだな。あんなに恋していた自分たちは何処に行ったのか、なんてことにならないように新鮮みを保つんだ」

「お前それ実践したの」

「やらなくて失敗した上での考察だ!」

「胸張るなよ」

「ともかく、一緒にいるだけでいいと言われてもデートぐらいには誘ってやれ。付き合ったばかりの恋人宜しく手でも繋いで」

「……想像できねえ」

「つか信用できねえ」

殆どの男子が胡散臭げに非難の視線を浴びせる中、フレンは顎に手を当てて考え始めた。デート、そう言えばデートらしいデートは最近していない。
すると、フレンが真面目に考え込んでしまったと勘違いした一人が手を振った。

「こんなやつの言う事なんて聞かなくてもいいと思うぞ、フレン」

「そーだよ、フレンならお前らしさで以ってアピールすりゃあ彼女とか一発だろ。純朴そうな感じがまたいいとか思われんじゃね?」

「あれ、それお前の趣味じゃなかったっけ」

「…まさか、男に興味あんのか!?」

「はっ?いや男な訳あるか!ただフレンはそこがいいと思うんだよ」

「まぁフレンだしな…」

「……さっきから僕を何だと思ってるんだい」

勝手に人のことで盛り上がっている友人に溜め息を一つ、フレンは授業に出るべく席を立った。参考にするよ、ありがとうと一言声を掛けて。












その夜。フレンは帰宅したユーリに外出を勧めてみた。思いがけず顔に「今から?」と書いてあるユーリの手を握って、家を出る。夕食がまだだったからついでに済ませられればいいだろうと、移動手段を目当てに実家に向かった。フレンが時々使う自家用車。これに乗るのはフレンもユーリも久しぶりだ。
寒そうにマフラーで口元を隠していたユーリは、冷えた車内に身震いをした。すぐに暖房を入れたが、勿論そう早くは温まらない。フレンは自販機で買ったココアの缶をユーリに手渡した。

「いつも準備がいいな。サンキュ」

「大して温まらないかもしれないけどね」

「や、十分だって」

かじかんだ手を缶で温めているユーリを尻目に、フレンは車を出発させた。久々の運転ではあったが、特に支障はない。
ところで、とユーリはココアをちびちび飲みながら口を開いた。

「どこ行くんだよ?」

「そうだね…特に決めていないけど、夜景を見ながらドライブデートでもしようかなって」

「…そんなロマンチックなこと期待されても困るんだけど」

「君には欠片もないからなぁ」

「人のこと言えんのか?」

「ふふ、別に雰囲気なんて気にしないよ。一番綺麗に見えるところがあるから、そこに行こう」

冗談を交えながら談笑する二人からは、確かにロマンの欠片もない。しかしそれが一番のあり方だった。任せる、とユーリは助手席に座って窓の外を見た。

が、出発して何分も経たないうちにふとユーリの腹の虫が鳴いた。帰ってから何も食べていなければ勿論腹も空く。待った、と少し顔を赤くしたユーリが言った。

「飯先にいいか…?」

「あぁ、いいよ。ユーリが好きなところ言って」

苦笑したフレンは少し都会の方に入った辺りで車を止めた。







食事は豪華なものではなかった。たまに友達と行くくらいの普通のレストランでちょっとだけ高価なものを食べる。夜に出かけることは殆どなかった二人にとっては、結構新鮮だった。いつもならユーリがこのぐらいの時間に出歩いていると、フレンが怒るものだが、それは相手が心配なだけで。今は一緒に行動しているのだから何も文句はない。
デザートを多めに頼んで完食したユーリは至極満足そうだ。フレンが作ってくれたほうが本当はいいんだけど、とはまだ伝えていないらしい。

そうして車は賑やかな街並みから外れた場所に向かった。街灯がぽつぽつとあるような場所で、特に坂が多い。フレンは迷わず車を走らせてはいるが、ユーリは少し不安になった。一体何処に行くというのだろう。ふいに、フレンが呟くように言う。

「大丈夫、あともう少しで着くよ」

着く、と言われても。ユーリはフレンが目指す目的地が何なのか、全く見当もつかなかった。


フレンの言うとおり、10分足らずで着いた場所は、どうも小さな丘の上。暗い場所だが開けたところに車を止めて、下りる。フレンはユーリにマフラーを巻いてやって、手を繋いでポケットに入れながら引っ張る。そして促された先にあったのは。



自分たちが住んでいた喧騒を感じさせない、まるで一つのイルミネーションのように輝く街並みだった。



人間が営んでいる証拠の明かりを、見晴らしの良いところから見下ろしている。普段は自然環境を駄目にしていると感じがちな夜の都会も、こうして見てみると暖かく活気のあるように映る。
瞬きを忘れて目の前の光景に見入るユーリの隣で、フレンは穏やかに笑った。

「君の嫌いな都会も、意外と悪くないだろう?」

「…そうだな。煩いだけの街じゃねぇよな」

ユーリはぽつりと呟いて、フレンの手をぎゅっと握り返した。人工的な明かりはあまり好きではない。しかし、人が住み、築き上げてきた光はやはり輝いているものなのだ。


暫く二人で眺めた後、ユーリがくしゃみをした。寒そうに身体を震わせるユーリは視線だけでフレンに訴えた。それに気付いたフレンは暖かい自分の手のひらをユーリの頬に当てて触れるだけの口付けをし、手を引いた。



帰り道は人気の少ない静かな街を選んで走った。その間に助手席で眠ってしまったユーリを視界の端に確認して、フレンは幸せそうに笑った。昼頃の話の内容が脳裏に過ぎる。杞憂だったようだと、横に座る彼の寝顔が物語っていた。












夜道に光一つ

(飽きていたらもう既に別れているだろうね、ユーリのことだから)















相互記念に梶原さんよりフレユリ小説頂きました!
気取らない二人の自然体なところが好きです
あとフレンの友達との会話が普通にあるある過ぎてリアリティありすぎです…こういうディティールの細かさが作品をより際立たせているんですね
あんまりチュッチュしないところも好感が持てます
これが二人にとって当たり前なのよーな空気をビシビシ肌で感じます
理想のカップルすぎです。とにかく好きなんです
本当にありがとうございました!!!
私、あなたに一生ついていきます!!!!

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あきゅろす。
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