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誕生石物語
二月 アメジスト
夜更けの高層階から眺める下界は様々な色の光粒に満ちていた。

ホテルのバーはその明りを内装の一部と考えているらしく、オレンジ色の光がぽつぽつと灯るだけで海の底のような静かさだ。

洒落たスーツを着こなした男は店内を見回し、窓際ではなくあえてドアに近いカウンターに座った。

その席でも夜景は楽しめるが、夜景よりブラックのスーツの背に栗色の髪を波打たせた美女の指先を愉しめた。彼女がグラスを持つ右手にリングはあるが左手に邪魔なものはない。男は腰を据えて彼女を観察した。

「……きれいな指輪だね。」

男は、二杯のスコッチを飲み終えた後、一人でギブソンを楽しむ女に声をかけた。

「アメジストよ。2月の石……」

「へえ……君、2月が誕生日?」

「いいえ、ちがうわ。……酒飲みのお守りよ。」

女が空のグラスを持ち上げた。

バーテンダーは軽くうなずき、黙ったままジンとベルモットとパールオニオンを用意する。

「お守り?」

そう言いながら、男は自分のレシートを持ち上げ、彼女のカクテルは自分が払うとバーテンダーにジェスチャーで示し、自分用にはもう一杯分スコッチを頼んだ。

「そう。女が一人で静かに酒を飲めるようにね。」

「邪魔をしたかな?」

女の前にギブソンが置かれた。

女はしばらくグラスの降りる霜を見つめてから、カクテルを持ち上げた。

軽く男のほうにグラスを掲げてから、ゆっくりと口元に持っていく。
一口飲んでから、白い歯でパールをかじった。

「……色が、変わるそうよ。」

「何の?」

男もスコッチの水割りを女の方に掲げてから飲んだ。
華やかな甘い香りにピートのスモーク香が寄り添い広がっていく。

「石の色が変わるの。アメジストは毒を飲んだり悪酔いすると紫の色が薄くなるというわ。」

「……そうなんだ。知らなかったな。」

男は、カクテルを飲みこんでいく女の白い喉のラインを見ながらスコッチを味わう。半分以上飲んでから言葉をつづけた。

「……でも、その石はどう見てもグリーンに見えるんだが?」

男は女の手に自分の手を重ねた。

女は重なった手を動かさず、微笑んでからギブソンを飲み干す。

「これはグリーンアメジストというの。人工的に熱処理して色を変えているわ。……とことん変色しきっているという事ね。」

そういうと女は立ち上がった。

「Excuse me.」

男と女の間を金色の産毛に白い肌の男の腕が分け、女のレシートを持ち上げた。
 
女は微笑みながらその腕に手をかけた。

レシートを持ち去る男の左指には指輪がはまっている……。


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