月風 貴方が決めたのであれば、 私にそれを止める権利など無いですよ……。 私にとって、貴方は全て。 貴方が決めた事は私にとっての絶対。 例え貴方の心身が闇に犯されようと、 叫ばぬよう唇を噛み。 涙を堪え瞼を閉じ。 届かない貴方に伸ばす手は、ただ虚しく空を切る。 その日は、月がまた一段と綺麗だった。 【 月風 】 「…白虎…?」 カイがBEGAに入って間もなく、朱雀は白虎に呼び出されていた。 しかし、待ち合わせとして指定された場所に呼び出した当人の姿は無い。 (そういえば、昔から時間にルーズなんだアイツは…) そんな事を考えながら、朱雀はちょうど近くにあった芝生へと腰を下ろし月を見上げた。 「良い月だ…。そういえばカイ様も、お休みになられる前にこの月を……」 月に見入っていると、ガサリ…草をかき分けるような音が聞こえ、心地の良い低音が朱雀の名前を呼ぶ。 「朱雀」 物音と自分を呼ぶ声に振り向くと呼び出した張本人・白虎が立っていた。 「遅いぞ、白虎…」 「わりぃ」 「…別に。それで、話しとはなんだ?」 白虎は一息つき、朱雀の隣りに腰を下ろすと静かに口を開く。 「…下手にごまかすのも野暮だよな…」 切れ長の金目が朱雀を真っ直ぐ見つめた。 「単刀直入に聞く。お前は、カイが…俺の主・レイや青龍の主、玄武の主のいる場所ではなく、他の奴等を選んだ事をどう思っている?」 「何を言うかと思ったら…」 朱雀は愚問だな、と呟き立ち上がって白虎に背を向ける。 「私は…私はカイ様が決めた事なら反対しない。」 「それは…!……それはカイの意志であって、お前の意志じゃねえだろうが…っ」 あんな奴等の所に居たって、カイが苦しむだけだって…お前が一番解ってんだろ…!? 苦々しく言う白虎に、朱雀はそれ以上なにも言わなかった。 ただ静かに月を見上げる。 重い沈黙が流れ、風か草木を揺らす音だけが辺りに響いていた。 「レイは…」 その沈黙を破ったのは白虎だった。 「最近、何事にも身が入ってねえ。他人から見たらいつもと一緒に見えるだろうが、長い間ずっと一緒にいた俺には解る」 「………」 一言も発しない朱雀を気にする様子もなく、白虎は続ける。 「そして…これは俺の勘なんだが…多分、レイがこうなったのはカイがいなくなってからじゃないかと思う」 「何…?」 怪訝そうに朱雀は白虎を見た。 「レイはカイが心配で仕方ないみたいだぜ」 何度も俺に聞いてくるんだ…と、苦笑いを浮かべ白虎はヒョイとわざとらしく肩を竦めてみせる。 「それだけ言いたかった…ただな」 「お前以外にも、カイの事を心配してる奴がいること…忘れんなよ。…俺だって……」 白虎が言いかけたその時、強めの風が吹く。 そんな白虎の声は風の音に遮られてしまったが、朱雀にはしっかりと届いていた。 ―心配なんだ…。 ―カイの事が、 ―そして何より…お前の事が……。 大きな手でフワリと朱雀の頬を撫でて、白虎は去っていった。 「言いたい放題言って、去っていくとは……」 白虎が触れた自分の頬に、そっと手をあててみる。 そこにはまだ先ほど感じた温もりが残っているような気がした。 「……私は…、カイ様の事が何よりも大事だから、なあ……」 緋色の瞳に溜まった涙。 誰も知らない優しい闇の中で。 ただ月だけが、 そんな彼を見ていた。 END ********** あとがき。 レイカイから派生したまさかの白虎×朱雀。 聖獣×聖獣…良いと思います← 07/1/20 掲載 09/5/7 加筆修正 戻る |