君と僕とを繋ぐ糸を見ることが出来たなら<029>
「ほら、そんな薄着じゃいくら良紀でも風邪ひくよ?」
今まさに仰ぐ空以上の興味もなくて相変わらず全てのベクトルは目一杯に上を向いたままだった。そのせいで、突然神経に触れた用に感じた上着に驚くことになった訳だが。
首を反らしただけで目に入った風に揺れる髪は、茶色と呼ぶにはずっと柔らかなベージュをたたえていて。
優しいはずのその色が、何故か酷く目に滲みて痛みを生んだ。
けれど、ここで泣いて何になる。
「やっぱり、軍なんて女が足を踏み入れちゃいけない世界だったんだよ。元から。」
嫌だ。言いたくない。
「私さ、軍人を止めるよ。」
「そして今まで忙しかった分、のんびり過ごすつもり。」
「生活費には暫くの間、貯金を使って、ちゃんと動けるようになったらパン屋さんとかで働いてさ」
「まあ別にパン屋さんにこだわりがあるって事も無いんだけど、って……カタギリ…?」
やめてよ、そんな顔しないで。
「それは本心かい……?」
「……冗談でこんな事は言わないよ。」
「そう…、寂しくなるね」
「たまには顔出すからさ」
嘘。
出す訳無いよ。
例えば、自分が乗ってたフラッグに違う人間が乗ってるところなんか見たりなんかしてみなよ。
そんなの耐えられない。
そんなの見るくらいなら一切軍に、そこにいる友人に関わらないほうがずっとマシ。
だから私は軍を出るの。
きっと気付いてるんでしょ?カタギリだって。
だからそんな表情をするんでしょ?
ごめんねカタギリ、グラハム。
怖いんだ。とても。
何も見えない宇宙に前触れもなく放り出されたみたいで、怖いの。
私はもう戦えないの。
「ごめん、ね。」
029:君と僕とを繋ぐ糸を見ることが出来たなら
ほんの少し前までは確かに繋がっていたと思うけど、
お題提供:追憶の苑様【切情100題】
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