one scene(参謀&少佐) 「良紀ちゃーん」 「……。」 「え、無視!?酷くないっ!?しかも今思いっきり目が合ってたのに!」 「サングラスで見えないけどね」 一瞬手元から目を反らしたと思っても、すぐに視線はニケに戻す良紀。 ニケを部品という部品に解体-バラ-し、一つ一つを丹念に磨きあげ必要とあれば油をさす。 彼女の体躯にはおよそ似合わない重厚さを持つそれは、見た目に似合う程度の沢山のパーツによって組まれているようだ。 これらの光景から整備中であることが理解出来ないほど流石のヒュウガも馬鹿ではない。 愛銃に夢中な良紀の斜め向かいに腰掛けた。 真向かいでは無いのは気を散らせないようにとの心遣いだろうか。 とにかく、余り目障りでない位置から作業を眺め始めた。 「……貴様、仕事はどうした」 しかし、それを許さないのが彼。 ブラックホークの長であり、バルスブルグ帝国の参謀長官という地位を持つアヤナミである。 「へへん!もちろん終らせたよ!」 俺だってたまにはやるときあるんだからね! 後から付け加えられた言葉は自慢しているようにも聞こえるが、実は己の堕落さをさらけ出しているだけであることに気付いてはいないだろう。 「先程、緊急の物が来たはずだが?」 「もちろん。なんなら確認してくれてもいいよー」 普段が普段なだけに疑われて当然。そもそも疑われないはずが無い。 「……いつもこうだと少しは貴様もマシなのだがな」 いつもは何かしら話を反らそうとするのに対し、今日はそれをしようとしないことから真実だと判断したのだろうか。 溜息混じりの本音が零れる。 「アヤたんの鬼ー!ふふん!今日は何たってあの日だからね!ねぇー良紀ちゃんっ」 裏を含んだような口ぶりで組み立てをちょうど終えたばかりの良紀に話をふる。 すると、僅かながらアヤナミの無表情が動いた。 「は?何が?」 そんなことも知らず、いきなりふられた話題の意図が理解できず聞き返えす。 「惚けないでよー。今日が何の日か忘れたりなんかしないでしょー」 「……?」 ニコニコといつになく笑顔のヒュウガが期待しているであろう返答に心当たりが無い。 「もう!天下のバレンタインデーを忘れたなんて言わせないよー?」 ついに痺れを切らしたヒュウガが心を明かした。 「ばれんたいん?で、この手は何?」 しかし、相変わらず意味がわからない。 「わかってるくせにー。まぁ、いいか。……チョコちょーだい!」 「何でヒュウガに」 何故ヒュウガにチョコをあげる必要があるというのだ。 「……もしかしてホントに知らない?」 「さっきから言ってる通りだけど。」 「………っ!!」 しれっと言ってのければ、ヒュウガはひどく驚きそのまま硬直してしまう。 「大まかに言っちゃえば女の子がチョコをあげる日なんだけど…」 だが、やっとのことで立ち直り、まさに恐る恐るといった様子で言葉にする。 「ああ、だからなんかいろいろくれたんだ」 そういってソファの後から引っ張り出した袋の中には色とりどりの包み。 「……」 明らかに気合いの入ったそれらは、並大抵の者では手にできない数であった。 もしやと思い、『好きな異性に愛を告白する日』という表現を避けたのだが、まさかこれほどだとは予想しておらず言葉を失う。 「バレンタイン……バレンタイン………あぁ、なんか1800年くらい前に恋人だったかを助けに行って殺された人の名前、だっけ?」 今度こそ完璧にフリーズしたヒュウガを気に留める様子もなく、記憶を辿る。 日にちに関しては何一つ思い当たらないが、人名に限っては思い出すことができた。 「ま、間違っちゃいないけど違うよっっ!――アヤたん!何で教えてないの!? 」 「製菓業界の策略など知ったところで…。その程度のこと必要なかろう。」 「あ゛〜〜もう!甘い匂いに不自然な視線!行動!そして忘れちゃいけない作ってる最中のドキドキ感!!これを体験しないで女の子達はいったいどうやって大人になるの!!」 「……くだらんな」 「良紀ちゃん!良紀ちゃんなら甘酸っぱい思い出達の大切さがわかるでしょ !?」 アヤナミにあしらわれて矛先を変えた訴えかけるような瞳……は、サングラスに隠れて見えはしないが、その必死さだけは溢れ出てきている。 「へー、……で?」 私は後々この言葉を激しく後悔することになる。 これほど必死な状態の彼にこの台詞はまさに火に油を注ぐものとなったのだ。 「ブチッ」という何かがキレたような音が聞こえたと思ったら、腕を強く引かれ足にかかる負担が消える。 視界の端を掠めて枠の外へ流れていったアヤナミのいつもより少しだけ開いた目が瞼の裏に。 虚を突かれた自身の間抜けな声が耳の奥に、焼き付いていた。 「とてもよくお似合いですよ!」 「本当に可愛くていらっしゃる……、私たちも選びがいが有りますわ」 どこでどう間違ったのかはっきりわかっているだけに過去の自身に対して腹が立つ。 店員も、私を此処に連れて来た張本人であるカーテンの向こうのヒュウガも全てが酷く煩わしい。 いっそニケを使ってしまいたい。 けれど、先程のヒュウガの言葉を思い出し頭-かぶり-をふる。 ――「ニケ、使ったらどうなるか解ってるよねぇ?」―― 笑っていながらも有無を言わせない圧力があった。 此処で愛銃を解放すれば、アヤナミに話が行ってしまうだろうことは安易に想像できる。 そうである以上堪えるしか道は無いのだ。 「……疲れた。」 「えー、楽しいのはまだまだこれからでしょ?」 「楽しいのはヒュウガだけだって…」 「次はどこにしよっかなー」 「これ以上どこに行くというのだ」 「お、アヤたん遅かったねー」 「――あッ、アヤナミ!?」 「良紀か?」 閉められたままのカーテン越しに聞こえる声は良く知っている。 この場で聞くことは無いはずだった低音に驚いた。 「そうそう、アヤたんも良紀ちゃん見てみてよ!絶対驚くから!」 先程まで着付けをしていた両脇にいる店員の一人がヒュウガの要請に許可を出す。 抗議の声を出す為に口を開きかけたのも虚しく目の前の空間が広がった。 「「……っ」」 「う、あ、その、えと…」 微動だにしないアヤナミとヒュウガ。 初めてのその反応に不安感ばかりが増えていく。 「わる「か、可愛い!!」」 アヤナミが何か言い切る前に、横からヒュウガが乗り出して来た。 「いやーやっぱ俺が見込んだだけはあるね!」 「……人をさんざん連れまわしたやつが何を偉そうに…」 「アヤたんもほらー固いこと言わないのー」 「まぁ被害者は私だけど」 「良紀ちゃん!??……だんだんアヤたんと言うこと似てきたよー」 ガクッと肩を下げようが、私の苛立ちを抑制する効果は今更無いのだ。 「揚句、アヤナミまで巻き込むなんて……」 じわじわと空間を埋めていく良紀の殺気から逃れるように、ヒュウガはじりじりと後退する。 半永久的に続くかとも思われた攻防戦―― 「「「いらっしゃいませー!!!」」」 「じゃ、アヤたん!良紀ちゃんよろしくね!」 「逃がしたりなんか――――ッッ?!」 来客を出迎える声を合図に外へと飛び出したヒュウガへ制裁を加えるべく踏み出した脚。 しかし普段と勝手の違ったブーツで、いつものように踏み出してはうまくいくはずが無い。 それに、いつもは着ることなんか有り得ない華美な装飾の衣服。 布による直接的な拘束と、単純に布や装飾の分で増えた重量による抑圧。 地面を踏み付けるはずだった脚は自身の脚を踏み付けてしまった。 既に重心は前方に傾いている。 よって、動かせない脚は支点となり、フロアまでの高さを加速度的に縮める。 突然の事態に理解が追い付かず、ただ呆然と流されるだけだった。 「お前には危険を回避しようとの本能は備わっていないのか…?」 溜息が少し上から聞こえる。 そして肩には自分のでは無い腕がある。 「あれ…?、ああ、そっか」 アヤナミの腕だ。………そうか、転ぶところだったんだ、私。 「立てるか?」 「大丈ぶっ!…ーーっうー」 一連の出来事を自覚すると、急に踏まれた方の脚がジンジンと痛みだす。 体重を掛けた拍子にその痛みは強いものに変わった。 「うぅ………情けない…」 その場にしゃがみ込み、少しでも軽減させようとした、その時。 下がるはずだった視点は何故か上昇する。 「?!!」 「邪魔になる」 突然のことに驚き身を固くしていると店員の斉唱が聞こえ、人工的な調節を受けていない澄んだ空気が肌を突くのを感じた。 「ね、アヤナミ…、もう大丈夫だから」 「また転ばれるほうが面倒だ」 降ろしてくれという要求を孕んだ言葉も一刀両断される。 こうなっては仕様が無いので諦めて運ばれるままになっていたら、少し行ったところで硬質な物の上に降ろされた。 ホークザイルは大人しく待っていた。 「捻挫だな」 「踏んだだけだと思ったのに…」 「踏んだ程度であの痛切な様はありえぬだろう」 何の気無しにホークザイルを撫でている間のどこか気付かないうちに、少しずつ、だが確実に腫れ始めた関節が表わにされている。 「……ゴメン」 「何に謝る」 「アヤナミの仕事の邪魔した…、迷惑かけた……」 「お前では無い、ヒュウガの所為だ。謝るな。」 「それに、なにも不利益ばかり被-こうむ-った訳でも無い。」 「?」 「なかなかに似合っているぞ」 彼が立ち上がる際、一瞬近づいたと思うとそれだけ言って、慣れた動作でホークザイルに乗り込み手を翳-かざ-した。 one scene ≪curtainfall...≫ ごめんなさい! 季節丸無視ですね!(WDですらずれてるのにVDとかあまりに酷い ……orz ちなみに、最後に手をかざしたのはザイフォンを送るためです……いちおう '08/03/15 *←→# [戻る] |