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Before―M《2》




これは良紀がやってきてさほど時を経ていない頃の話。

座長に押し付けられた雑用兼、文字通り『世間知らず』な良紀への案内を済ませた帰り道。





「何やってんだよ」
「……」
「おいっ」

返事もなく俯き続け、ついには膝を折った。

「――ったく、」

しゃがんで何かを覗き込んでいる。それを上から見るには背中が邪魔で自身もしゃがんで横から介入するしかなかった。

「蟻……?」

黒い点が線を描いた先には、褪せた緑色の何かだった。
細長い形状の物がいくつかある。
それ以上に細い枝のような物も数本。
目のついた三角形。
それらは蟷螂(かまきり)だった。
ばらばらになり運ばれていく。
大きすぎるパーツはさらに細かく分解(ばら)され、形なんてどうでも良く、枯れたような色だけが残って見える。


「ほら」

膝を伸ばすついでに軽く肘を引き上げると、予想外なほどすんなりと立ち上がった。
だが、目線は未だ釘で打たれたように離れはしない。


「変に目立つ前に行くぞ。」

「黒いやつらに食べられるしかないのかな、緑の。」

たかが虫の話しだというのに妙な危うさを覚えたのは、良紀の声に感情を感じ取れたからなのか。
無表情で機械的な態度が一瞬とはいえ崩れた、その事実は喜ぶべきところでなくてはいけないはずなのに。

「なぁ、お前はどうして追われてるんだ?」

「壊したから、沢山。白いのと、白いのたちが大切にシテタモノ」

「白いの?」

「白いのは沢山居て、こことか、いろんな場所に長いのをいっぱい付けて白い四角の中でおっきいのを壊せって言うの」



やっとわかった。

無い以前に知らないんだ。
とこまでも純粋で透明な良紀の中には、感情も、善悪も、愛情さえも。

この世のどんな光でさえも受け入れるどころか反射する術ですら持っていないのだ、と。





考えるより先に体が動いていた。

「いい。」

今思えば、なんとか良紀を繋ぎ留めたかっただけかもしれない。
見失わないように目印を付けたかったんだろう。



「お前はもう、此処に居るんだ。」


彼女の左耳へ無断で付けた金色。

願わくば、彼女を染めてはくれないか。



「明日を考えられるんだ」







アカシ





なぁ、神様ってのがいるのなら

どうかこの子を戻してくれ。




そして、俺らに"明日"をください。




≪curtainfall...≫
















アカシ=証、赤し、明かし...etc




もうお気づきの方もいらっしゃいますかね?
本編で明かされたりした場合、程度によっては書き直すやも。

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あきゅろす。
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