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Before−M《1》


「っはぁ……ッふあっ……」
「ちっ!見失ったかッッ、――いくらドーロンとは言え子供の足だ、そう遠くへは行けまい!半径2キロ以内をくまなく探せ!今、すぐにだ!」
「……ふっ…もっ……ほっといて……ッ」

ことは数時間前に遡る――……。




カイキ



「何を考えておられるのです?」
「あれはもう要らぬ…、だが、そのまま返すわけにはいくまいと思ってな」
「では調度良い。あれを私に頂けますかな?」
「…あれになんの使い道があるというのだ?」
「今、ザイフォンを使えない者でも一時的に使えるようにさせる薬の研究をしていましてな」
「そのような話、一度も聞いておらぬ」
「…なんせ人体実験を繰り返さなければいけない厄介な代物。そんなものをおおっぴらにすることなど、愚の骨頂であるかと」
「それもそうだな。…よし、良いだろう、お前にくれてやる」
「はは、有り難い。これで研究も進むというもの。あれほどのザイフォン使いーモルモットーは、まず手に入りませんもので」
「手鍛であればあるほど面が割れて手が出せぬものだしな」


……ふと我に返ると既に冷たい外気と真っ暗なカーテンにぽつんと残された三日月の影に包まれていた。
「被験体第7730号(ドーロン)が、所長、研究員を含めた13人の死傷者を出し逃走中!」

被験体第7730号、通称『ドーロン』
………イカレた科学者達への神からの贈り物(モルモット) 。


「やつは中を知りすぎてる!必ず見つけだせ!それと貴重なモルモットだ、極力殺すな!」
「「はっ!!」」




人じゃなくなる前に一度だけ見てみたくなっただけだった。
3ヶ月前、たまたま見えた自分自身のカルテに挟まれていた写真の見知らぬ男女に。
「  」
わからないけどひどく安心させられた。
……『Mother』って何?
……『Father』って何?
どうして、
どうして、
どうして、
どうして………こんなに苦しいの?

その消えない疑問を解決してくれる気がして。




手をついていた先の壁という、有り得ない場所からの強力な引力に、なされるがまま引き込まれていく。

ギィィ――バタンッ
古めかしい音が外との断絶を告げた。

「大丈夫かい?坊主、」
「………………ッ」
「怪我は無いか聞いとるのだが……、言葉がわからないのか?」
「怪我なら、無い…けど……?」
「ならよかった」
不可解な引力の正体はところどころが欠けた歯を見せて笑う初老の老人だった。

「たっく、まだ12かそこらだろ?そんなもんであんなに追い掛けられるたぁ派手な人生送ってんなぁ、坊主も」
節くれだった手で粗く頭を掻き混ぜられる。

――何だろう。
白い服も着ていないし薬臭くもない

「で、坊主。落ち着かないとこ悪いんだがな、一つだけ確認していいか?」
「……坊主?」
「なぁに、そんなに身構えるな、至極簡単な事さ。あいつらに『捕まりたい』か、『捕まりたくない』か、だ。」

「…………たくない。」

「あぁ?すまん、老いぼれの耳にはちぃとばかし小さすぎるな」

「…………帰りたくない…ッ」

「そうか……。よぉしガキども出てこい!新入りだ!!」
「おい、ジジイ!女じゃねぇのかよ!」
「じゃぁかしい!まだ毛も生えそろわねぇクソガキが!」
「何年前の話だよッ、こんの死に損ないの老いぼれ!」
「余計な水売ってる暇があんならさっさと支度しろ!」
「いってーなッ!わかったよ、やりゃあいいんだろ!?」
ゴスッという嫌にリアルな的中音と怒鳴り声が不協和音を作り出した。

「ようこそ一座(はみ出し者)へ!」



扉の内側は、知らないことばかりで溢れた新しい世界だった。



≪curtainfall...≫


カイキ=回帰、怪奇、回忌、..etc








ホントは本編が進んだ後にこっちを出すつもりでしたが、この通り忙しくなってしまったので急遽繰り上げ。
昔のだからやっぱり書き方違うなぁ。
あえてそのままアップ。

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