大和:音にしてしまえばなんて軽い
「上体起こし何回?」
たける、そう呼ばれて振り返ればもはや見慣れた良紀の姿。何の疑問を持たず続きを促せば、それはそれは、酷く素っ頓狂な質問だった。
「……は?」
「ほら、スポーツテストの。」
それはわかる。上体起こしは結果の中でも1番上の欄に書かれていると知っているくらいにはわかっている。それがどうして今更、1月という季節になって結果を質問されるのかがわからないのだ。結果が俺達の手元に来たのは、たしか夏も盛りのころだったはずなのに、どうして今更。
「入学してちょっとしてからやったじゃん」
俺の沈黙の理由をスポーツテストという記憶の欠落と考えたようだが生憎違う。これまで毎年やってきたものだ。嫌でも忘れられない。
覚えていることを告げれば質問は再びスタート地点に戻り、何回?と尋ねてくる良紀の意図が汲み取れなかった。
「いきなりスポーツテスト――しかも上体起こしなんて持ち出してどうしたんだ?」
素直に疑問を返せば、ただ気になっただけとの呆気ない答えが与えられた。全くもって意味がわからない。俺も相手に会話にならないと言われることが少なくないが(俺としては普通に成り立っていると思っているのだけど。)、良紀の話はその度合いを遥かに超えているんじゃないだろうか。
「あー。なんで染色帯の最後の最後のちょこっとの違いでこんな違うんだろ…。」
「こっちが必死こいたって全然届かないし」
「だから女子って嫌なんだよね」
……誤解される前に先手を打たせてもらうが、最後の一言は断じて俺の言葉じゃない。というか最後に限らず、一連の発言全てが良紀の言葉だ。
「良紀がそれを言ったら駄目だろう?」
「だって私の記録じゃどうやっても猛の記録に掠りもしないじゃん。これでも、女子の中ではいいほうだってのにさ。」
ずるいよ。そう言った良紀はこれまで見た中で1番悔しそうな表情だった。例えば、クラスマッチで先輩達のチームに1ゴール差で負けたときなんかよりもずっと。
「どんなに頑張っても猛は雲の上、私は置いてかれたまんまってことなんだろうね」
071:音にしてしまえばなんて軽い
真相は愉快な程、実に簡単なものだった。
「はははっ、流石と言ったとこかな」
「置いていかないよ。俺には良紀が必要だから」
笑うなと怒った良紀の頭を撫でた。それがまたさらに良紀を怒らせたけど気にしない。
赤くなった顔で悪態をつかれたって、痛くも痒くもないのだ。
2009/01/12
また、性懲りもなくヤマトタケルノオオミコト様(合ってるけどなんか違う)をば……。
なんか、大和相手だと気の強い子に勝手になる。
ま、いいか。もともとうちのサイトってそういう子ばっかだったし。←
大和って気に入った相手は構い倒すタイプですよね。きっと。
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