グラハム:君の言葉ばかりが降り積もる なぁ、良紀。そう、話しかけて腕まで掴んでおきながら、動こうとしない迷惑な同級生。その名もグラハムエーカー。 「なにって聞いてるんだけど、グラハム。」 暗に用がないなら離せとばかりに冷たい目を送ったが、効果はゼロ。それどころか腕を握る強さが増した。ようやく顔を上げても、最初と同じ言葉でなんら進展はなかった。 「なぁ、良紀」 だから、なに。グラハムはいつになく真剣な目をしているけど、あいにく私は暇じゃあない。だから、グラハムとじゃれてる暇はないのとだけ言って踵を返そうとした。ああ、来週は大会なのに。貴重な時間が……っ 「……直ぐに済む。」 「じゃあ、早くしてよ」 良紀。私も君と同じ気持ちだ。私も君を好ましく……いや、君に恋心を抱いている。そして、周りから聞こえる女子達の叫び声と男子達の囃し立てる声に聴覚を占領された。腕の締め付けは今は無く、代わりに感じる肩の重さと不自由さ。唇に感じた熱に気付いたのは最後のことで、それまでの経緯を理解した時に至っては暫く経ってからだった。 「君を愛してるよ、良紀」 「――ンのっ、バカハム!!!!バカ!変態!ガンダムオタク!離して!なにすんの!さいってい!!」 渇いた音と私の声が廊下に響く。 つまりだ。わけがわからないが、何かをどうにか勘違いした学年一の人気者は、私がグラハム=エーカー……その人を好きだと思い込んでいるらしい。そして、私からしてみれば一方的な。やつからしてみれば返事的な意味をもった告白をしてきた。それだけでも充分なのに、あろうことか、部活へ向かう生徒がごった返す廊下で私をだきしめ、いっ…所謂まうすとぅーまうすまでしてくださいやがったようだった。 「どうして私は叩かれたんだ……?」 頬の紅葉を抑えて腰を地につけた人気者君をさっきの比じゃなく睨みつる。 「わたしはあんたを好きだなんて言ったことは一度もない!」 ――プライマリーのころ、私のお嫁さんになると言ってくれたじゃないか。はぁ!?馬鹿も休み休み言ってよ!わかった、わかったからそんなに睨まないでくれ!―― 「私は昨日、それを聞いた。たしかに君はカタギリにそう言っていた。私が一番好きだ、と。」 「昨日の、いつ?それ。」 「昼連に向かう際、通り掛かって耳にしたのだから昼休みだ。本当は直接言われるまで待つつもりだったが、君が私を好きだと言ったのを聞いて居ても立ってもいられなかった」 「昨日……昼休み…………? ああああああ!!グラハム、あんた馬鹿にもほどがある!」 昨日の昼休み。私とカタギリの議題は「どこのお菓子が美味しいか」というものだった。ちなみに途中で話がクッキーでもりあがり、どんなクッキーが一番好きかという話題に変わったりもしていた。きっと、グラハムが聞いたのはそこだろう。「どのクッキーが一番好きか」というカタギリの問いに私は、迷わずに「グラハムクッキーが一番好き」と答えた記憶がある。グラハムクッキーは私の大好物だ。誕生日にも、友人からもらうのはグラハムクッキーなほどに大好きだ。そして、通りすがりの人気者が偶然聞いたのは「グラハムが好き」。通りすがりで中途半端に小耳に挟んだのが災いした。 「私が好きなのはグラハムクッキーだし……」 同級生兼幼なじみのグラハムも当然、それを知っているはずなのに。 良紀、良紀。繰り返し私の名を呼ぶグラハムの声に目線を向けると、やけにぼやけた姿で私の前に立っていた。 「悪かった。……私の勘違いで君を傷付けてしまったみたいだ。泣かないでくれ」 今度はさっきみたいに感情のままに押さえ付けるものじゃなく、優しく包まれるような抱擁で、酷く懐かしくて安心した。けれど、それでも涙は止まらない。 「いちばんめ……、だったのに…」 そうだ。ファーストキス。私のそれは、幼なじみの勘違いによる事故のようなものに消えた。これでもいろいろ夢があったのに。好きな人と、デートの帰りに名残惜しいねってとか。本当くだらないものだけど。 「いや、それはちがう。ファーストキスはプライマリーのころ既に私が貰っていた」 「……は?」 「ということはセカンドか……。は……っ!しかもあれから12年……!何と言うことだ!良紀!やはり私と君はそういう星の元に生まれたのだよ!」 グスグズと鼻を鳴らす私を置いてけぼりにし、尚もグラハムは暴走する。 「良紀、君は知っているかな!?ファーストキスとセカンドキスを12年越しに同じ相手とした二人は必ず生涯を共にするのだよ!」 やはり、籍を入れるのは就職してからが良いか?ならば、まずは良紀のおじさんおばさん…いや、お義父さん、お義母さんに挨拶をして婚約をしよう。そしてハイスクールを終えたと同時に同居……それがいいな!子供は3人、そうだ3人がいい。一人目は良紀にそっくりな女の子できっと気の利くいい子になるな。二人目は男の子で正義感の強い子だ。三人目は男……いや、女の子か?まぁどちらでも末っ子だからといって甘やかし過ぎぬよう気をつけなくては…… 「グラハム………」 「なぁ良紀!子供の名前は何が良い?!」 「馬鹿に付ける薬は無いの、ゴメンね。」 とりあえずプラス一発は殴らせてもらおう。 これぐらいしたってバチは当たらないでしょ。 060:君の言葉ばかりが降り積もる (人の話を聞け!!この馬鹿!!) お題提供:追憶の苑様【切情100題】 やまなしおちなしいみなし ちなみに、12年越し云々は書きながら適当に考えたんで本気にしないで下さい… Boohちゃんの発言、グラハムのスペルはグラハムクッキーのグラハムだよより発生。どーしよーもなく、しょーもないネタでした 2008/12/28 *←→# [戻る] |