あなたの背中しか思い出せない<041>
「撒くぞ、良紀」
耳元で小さく囁かれた筈のその言葉は大きな力をもって私を確かに頷かせた。
「政宗、テメェ逃げんじゃねぇよ!」
「生憎、おまえらと違ってオレは暇じゃ無いんでな!」
後ろからの怒号に振り返る。
おまえらに構ってる時間すら惜しいんだよっ。
ニヤリといつもの悪人みたいな笑いを浮かべて、それだけを返す。
そんな調子で、いつも通り私の手を引っ張る後ろ姿に気付かれないようにため息を零した。
もう大分離れたせいか、それとも人込みのせいか。聞き取る事が出来なくなった反応に少し心が残るところだ。
「悪い……良紀。痛むだろ?」
『怪我はしてねぇな』
「ううん、大丈夫。履き馴れない下駄で走ってちょっと擦れちゃっただけだから」
ベンチに腰掛け朱く擦れた鼻緒の痕を覗く。
ほんのりと滲んだ血が痛々しい。いや、実際痛いのだけれど。
それでも痛み以上に、この時間をこんなことで潰してしまいたくはないから。
「無理すんなって、ホラ。」
『アンタの血は一筋たりとも流させねぇよ』
「え?……う、わっ」
胃が浮く感覚の後に離れていった地面。
「や、降ろして!」
「大人しく捕まってないと落ちるぜ?」
『いいから大人しく待ってろ』
その言葉に安定感の無い現状が急に怖くなる。
引き攣る頬と政宗の服にしがみつく手を解せない。
「冗談だ、冗談」
「『オレが、良紀を傷つけるわけねぇだろ?』」
恐る恐る上げた目線の先には、いつかどこかで見たことのある笑顔を浮かべた政宗がいた。
自信ありすぎでしょ、君。
041:あなたの背中しか思い出せない
きっと、
ぜったい。
あれはあなただ。
※―※―懺悔という名の後書き―※―※
本人視点をやってみたいけど、私がやると淡々としててなんか、感情が水面下で流れてるだけみたいな感じに……(-д-`*)
ほんとは、あっちでの政宗と酷似しすぎてて(でも、2部の政宗のほうが若干冷めてる(16〜17歳イメージで。小十郎に面倒見られながらも、まだ荒んでたときの名残があるといい。子供っぽく意地を張らせたり、悶々とさせたり……←)、そのせいでダブらせて考えちゃってから相違点を見つけてはダブらせた自分への自己嫌悪と二人の政宗に対する申し訳ない気持ちに苛まれてるという描写を入れたかったが、
これは大人の事情で温存(^ω^)←
じつは、YMCの展開候補のひとつだったり。
*←
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