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遠いあなた<033>


私がここにきて約4ヶ月。
対した事件も無く無事に過ごせてきた。
もちろん、私がこの世界に引きずり込まれたということを無視したなら、の話。
もしも、あちらの世界に押し返されたなら、その時は本でも書いてみようか。
タイトルは“実録!伊達政宗の素顔!!”。
…………やっぱり止めておこう。
政宗なら冗談抜きで呪い殺されそうだ。
例え世界が違っても、500年後の世の中だろうと、これといった苦もなくやり遂げるんじゃないだろうか。



「ンだよ?」
「い、いや、何でもない!」


危ない危ない危ない危ない!
仕事してたんじゃあなかったのか……っ。
書状を書きながらよそ見をするなんて!

それで良いのか仙台藩主……!!




「ついに、あんたも俺の魅力に」

「ナイナイナイナイナイナイナイナイ無い!断じて!そんなことは!起こり得ない!ある筈がない!」


近いよ、近いよっ
何がって!?
ぜ・ん・ぶ!!

いやぁああにじり寄って来る………!
きっと少しずつ縮んでく空間に私が震え上がるのを楽しんでるんだ………っ
じゃなきゃ、……っじゃなきゃ、あんなに心底愉快そうな笑顔は作れない!




「来るなああ!」

「あー、俺傷ついた。そうやってちっせぇ頃から皆に拒まれたの思い出した。」

「え、これは、その…」

「べっつにー、毒盛られたり、刀向けられたりするなんて、珍しい事でも何でもなかったしなぁ」

「いや、別に……そんな」

「そういや、嫌いって言われてばっかだったなぁ」

「ご……ゴメン……」

「まっさか、良紀にまでそういう反応されるとはなぁ…」

「政宗!わ、私……政宗が嫌いとかそんなんじゃないし…、怖いとかも……別に……」

「いい、無理しないでくれ。ちぃっとばかし感傷に浸っていただけ――」

「私は!政宗の事好きだからそんな事言わないで!」




――にーんまり。




何の効果音かは決まってる。

政宗の、策が成功したときの、極悪人臭の漂いまくる、笑み。



「俺も“スキ”だぜ、良紀チャン」




ハ メ ラ レ タ



「いやぁあああああやっぱなしいまのなしリセットリセットリセットお!!」

「あんなに情熱的に愛を叫ばれるとは、な」

「そういう“好き”じゃあ無いから……!」

「俺の思いは無駄じゃ無かったというわけだ」

「ちょっとなに!なんで手とか押さえる必要あるの………!?」

「いやぁ、余計な怪我したくねぇし、させたくねぇし。」

「やだぁああこじゅうろうさーん」



「――政宗様」



「何だよ、少しじゃれてただけだろ」



計ったかのようなタイミングで襖の奥から現れた小十郎さん。
いつもの父性を感じさせるオーラが無いから何となく怖く感じる。


……怖い?私が?
小十郎さんを怖がる……?

ありえない。



「わりぃ……良紀、」

「大事な用なんでしょ?
……それに、今の私にとって政宗が避けてくれることほど素晴らしいことがあるとでも?」

「悲しいことのマチガイ、だろ?」



怒りに任せて蹴り出した足は、何も掠めず綺麗な弧を描く。

狙ったはずの嫌味な男は「また後でな」なんて得意の笑みを浮かべながら視界から消えていった。




嗚呼、顔に集まる熱が一段と心を荒らす。




033:遠いあなた





歳も大して変わらない、貴方と私を別ける物を知ってるよ。



――――それは、時代と立場。


じゃれあいの隣にある戦争だとか、



そういうモノ。





御題提供:追憶の苑様【切情100題】








いつにもまして、うまく表せた自信がない(´・ω・`)

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