くすんだ景色に君のことを思い出す<031>
まずい。
非常にまずい。
真っ黒なローブに身を包み、しっかりと顔に影を落としてフードを被った人達に取り囲まれている。
以前とは似ても似つかないこの状況に諦めの気持ちさえも生まれて来た。
「ついて、ないな……」
きっと……いや絶対、この場には彼のように助けてくれる人は居ない。
下手に抵抗しないほうがいいと思ったら実行するに限る。
されるがままに事の次第を他人事のように眺めていると、統率の取れた人の壁が俄かに乱れる。
何事かと振り返ってみるとフードを被った人の中の一人がこちらに向かって来るのが見えた。
通された部屋で見たのはついこの間まで一緒にいた友人と同じ赤色――クリムゾンの瞳。
「良紀……?」
「……なんで私の名前を知っているんですか」
それがかつての友人とよく似た、けれどそれ以上に影のあるヴォルデモートさんとの出会いだった。
「……リドル」
うんざりするほどの字列から目を離して、ヴォルデモートさんの顔がこちらを向く。
「トム=リドルっていう友達がいるんです。あなたによく似ている」
声こそ無いものの、なんだかんだ言ってこうして話を聞いてくれる。こういう細かい動作のひとつひとつ本当に似ていると思う。
「それはどういう意味だ?」
自分にとって不可解なことがあると、僅かに眉間に皺を寄せる様子も。
「外見もだけど、それ以上に中身が似てて……。
あ、だからといって深い意味があるという訳でもないんですけど…。」
彼は、ここにはいないだろうに。
同じ世界とも限らないんだから。
――文字通り、時の流れ世の流れに流される私が彼に、リドルにもう一度会うことは叶わないんだろう。
「……元気かなぁ」
言葉に出せば、急に自分の存在がいかにちっぽけかと思い知らされた気がして。
“なんとなく”だった感覚が、より重い絶対的な恐怖に変わる。
「お別れ言えなかったんです。私自身も知らなかったから。でも、多分……ううん、絶対、彼を怒らせちゃいました…。」
例えもう一度会えたとしても、前の通りとはいかないだろう。
「だろうな」といつものように短くぶっきらぼうなヴォルデモートさんの答え。
それに誰にも言うまいとひそかに誓っていた言葉を口にしてしまった。きっと馴れない感傷にほだされてでもしてしまったんだ。そうに違いない。
「ヴォルデモートさん、今から言うことを戯れ事だと笑ってくれても良いですから、聞いてくれませんか?聞いてくれるだけでいいんです。」
反論がないのを肯定と随分都合の良いとり方をして、私の口は恐ろしい事実を口にしていた。
「私、この世界の人間じゃ無いんです」
瞬間、押し寄せる後悔とリドルへの罪悪感、自責の念。
リドルにさえ話したことがなかったのに、他の人、よりによってヴォルデモートさんに話すなんて。
いくら似てるとはいえ二人をダブらせるなんて失礼にも程がある。
しかし、一度塞きを外してしまった以上、そう簡単に感情は止まらることを知らない。
「所謂“神隠し”みたいなやつだろうとは思うんですけど、気付くといきなりこの世界、もしくは元の世界にいるんです。
期間や時間、場所について考えようにもたった2回じゃ法則性も何も見出だせないですし……。
彼に、謝れないかもしれない。沢山お礼を言いたい事もあったのに」
ヴォルデモートさんに話せどリドルに伝わることなんて無いって頭では解っているのに。
「……すいません、忘れてください」
どうしてか、この人とリドルが繋がっているように感じる。
「別にお前が嘘を言ってるとは考えていない」
「ありがとう…ございます……。」
リドルと離れてしまってから、未だ1週間と経っていないはず。なのに、記憶の彼にはもう霞みがかかり始めていて。
「……何故泣く」
「すいませっ……」
頭に感じた重みに顔をあげると、やっぱり彼と良く似た強さと悲しさに溺れたクリムゾンの瞳に、私の情けない黒が映り込んでいた。
031:くすんだ景色に君のことを思い出す
(ねぇ、あなたもこうして沈んでいったの?)
御題提供:追憶の苑様【切情100題】
あえて、何も、語るまい。(矛盾
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