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糸で繋がる私たち<025>

ずっと前から気になっていたことが一つ。

「かわいい部下の疑問を門前払いするわけにはいかんさ」
聞いてもいいか尋ねれば笑って言った中尉がどう返答をするのかてんで見当もつかない。
しかし、この見込みの甘さが後々に尾をひくなんて思いもしていなかった。

「『もし』ですよ。……もし、フラッグとガンダムが在ってどちらに乗るか選べられる環境にいたなら、中尉はどうしますか?」

「これは…随分と難題だな……」

「中尉のガンダムへの執着は、『自身の手で倒したい』という一種のライバル視の類なのか、それとも『あの機体に乗ってみたい』というある意味独占欲ともとれなくもないものの類なのか……考えれば考えるほど判らなくなってしまって」

「どちらかと言うのなら『ライバル』を選ばせてもらおうか。彼ら……いや、彼女なのかもしれないが、…とにかくガンダムが現れて以来、私の毎日は色と光に
満たされ溢れてしまったのだよ。そう…まさに恋だ」


「結局たどり着くのはそこなんですね」
「結局も何も、私の思いは一目惚れから始まったのだから当然の結果だろう。ガンダムといえば…君と初めて出会ったのも同じ頃だったな」
「私がここへ着たのはソレスタルビーイング出現の暫く後ですよ…?」
「いや、その前に三度会ってる」

「……え?三度…?」
「ああ、“三度”だ。忘れもしない、忘れられるわけがない。」
「は、はぁ……」

「一度目は戦闘シミュレーションで君が敵対勢力側だったとき。シミュレーションといえど、あの動き……私の心を惹きつけるには有り余る程だった。出てきた
ところを遠目で捕らえたときにはヘルメットのせいもあってその容姿を記憶することは叶わなかった。
……そして二度目。感動冷めやらぬままに向かったビリーのところでだ。これは後に知ったことだが、ビリーのところにいた先客が君だった。君が去った後に、
訓練の話を聞かせていたら件のパイロットは君ではないかとビリーが言っていてたんだよ。そこで初めて君の名を知って、いよいよ私の思いは膨らんでいくわけ
だ。『良紀=九世が欲しい』とね。」


「申し訳ないのですが、てんで記憶に……。たしかにあの頃はカタギリ技術顧問に言われてシミュレートの数を増やしてましたけど…」

「そういう所も君の魅力だと私は思うが。……殺気には敏感なクセにその他の意識は透してしまう、その純粋さ――誰にも真似は出来まい。」

「これもまた自覚はありません…」

「だから魅力と言えるのさ。…そして最後の三度目は君の元上司を訪問した時だよ。実は君の名前を知ってから、君のオーバーフラッグスへの引き抜きを図って
いたんだがなかなか彼が承諾してくれなくてね、直に交渉しようと足を運んだときがあったんだ。無駄にはならなかったよ。こうして君を招待することができた
。しかも初めて君と言葉を交わしたのもその時だったしな。」

「その話を聞いたのは初めてですね。引き抜きをかけられてたなんて。」

「手段を選んでる余裕なんて無かったんだ。どうしても君が欲しかった、――軽蔑するならしてくれても構わないさ。」

「私は今の環境気に入ってるんで別に気にしてませんけど。……ガンダムと戦えるんです、これほど愉しいこと他に無いですよ。」
「同じ穴の狢というやつか」

「感謝はいちおうしておきます。」
どこまで一途なんだか、この人。



025:糸で繋がる私たち



決して強くはない力なのに、張られた糸に抵抗する気なんて今更起きない。

絆なんて芽生えていない、“はず”だ。




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