エル:散ってしまうときはいつも突然で
【拝啓、貴方様】
PM/10:03:01
お元気ですか?
もしもの場合を考え、いちおう名前は出さないように書くつもりです。
他人の手に渡ったりなんかしたら大変ですしね。
まぁ、名前ではなくただのあだ名ですが、あまりいい気はしませんから。
ならば元々、このようなものを書くなという話ですが。
やってみたかったんです、一度。
手紙を書くなんて初めてですが、なんだか不思議な気持ちになりますね。
これを読む貴方の反応が常に頭の片隅に居座り続けてくれています。
先程から眉間のシワの数しか変化が見られず、なんだかたいして面白い反応も見られないのでなかなか筆が進みません。
もう少し驚いてくれたっていいじゃないですか。
紙面も残り多くはないので(これでも、貴方を驚かせようと努力はしてみたんですよ)、くだらないことはここまでにしましょう。
そうですね、第一に"何故今更手紙を書こうと思ったか"について貴方なら聞いてくるでしょうか?
きっと違うでしょうが、そのあたりは見逃してくださいね。(月並みなことしか思い付けない自分の頭を哀れむばかりです)
手紙を書こうと思い立った理由はですね、実を言うと……とても怖かったからなんです。
ああ、自分でいうのも可笑しなものですが、普段が普段だっただけに私がいうと嘘臭ささが否めません。
なにやら外では雨が降ってきました。
空もこんな私を珍しがってるんですかね。
時々、私は一人だと酷く思い知らされるんです。
外を歩くとき、部屋にいるとき、電話をきるとき、夜寝るとき――すいません、これじゃ時々ではなくていつもですね。
寝るときなんて最悪です。視界を閉じると何故だか無性に苦しくなって、無力感に襲われて、泣きたくってしょうがないんです。
まぁ、泣いたところで余計苦しくなるだけなので無理矢理気付かないフリをして寝ちゃいますけど。
泣いたらもう歯止めが効かなくなりそうな気がして、そちらのほうが今の私には恐ろしく感じられるのです。
もっと話をしたいところですが……使い慣れない付け焼き刃なこの敬語にも、貴方を貴方と呼ぶことへの私の中での不自然さにもだんだん疲れて参りましたので
そろそろ終わりにしようと思います。
では、またの機会に。
お体にお気を付けて。
P.S.
お菓子以外もきちんと口にしてくださいね。
P.S.(U)
………やっぱりこの手紙は送らないことにします。
貴方を困らせたいわけじゃないのです。
「カップの中身がまだ温い…、いなくなってからそんなに時間は経ってないようだが……」
久方ぶりに訪れた部屋にはコーヒーだけが取り残されて主の気配は無かった。
状況から近くのコンビニへ少し買物へ行ったといったところなのだろうが、足場が全部取り払われたような心地さえする。
落ち着け。まだまだ冷えるこの時期にコートがここに残っている。カーテンだって開いたまま。彼女は出掛けるときにはカーテンを閉める人だった。卓上で間抜けに口を開いたままのハンドバックをちらりと覗いた分では財布や携帯電話が見えてはいない。第一、争った形跡等どこにも見当たらないではないか。彼女の平凡な日々の一部であると考えるに充分なはずだ。
ガチャ
「………え、エル?」
「どうも。お久しぶりです。」
案の定、捜し人は袋を片手にぶら下げていた。
「あ…、うん。久しぶり……、いきなりど」
「すいません。……貴女に寂しい思いをさせてしまった」
自室に踏み入れるなり思いもよらない人物を発見し、台詞までも被されてしまっても戸惑わない自信がある人はいるだろうか。
「何を…」
甘ったるい匂いと温い体温に包まれて戸惑わない自信がある人はいるだろうか。
「もうそんな思いしたくても、させてなんかあげませんから」
「ホントに……?」
「私は冗談が苦手だと知ってるでしょう?」
「だってエルって嘘つきだもん…」
「こんな嘘をつくほど悪趣味じゃありません」
「でも、エルにはLがあるじゃん」
「私一人でLはできません」
「今まで一人でやって来てたくせに」
「だから貴女が必要だと気付けたんです」
「………時間かけすぎだよ、ばーか…」
「たしかにそれは否定出来ません」
「……次なんて都合良いもの無いよ」
「次なんて必要ないです。もうこんな事は絶対に無いんですから……
それでは良紀、私と来てくれますか?」
024:散ってしまうときはいつも突然で
「断る理由があると思う?」
「あるんですか?」
「そんなわけないじゃん」
ずっと続くと思われたときさえ、貴方は一瞬で壊してしまう
お題提供:追憶の苑様【切情100題】
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