エル:膝を抱えて泣いていたあの日は今は遠く
「死んだら正義も何も無いじゃんか…」
「エルのばか……」
エルが死んだ。
キラに勝ったのに死んだ。
いうならばあれは自殺だろうか。
夜神月に勝つためだとか言って、ノートに名前を書いたのだ。
宙ぶらりんなペンで綴った汚い文字だった。
「死人に口無しって言葉ぐらい知ってるでしょ」
きっと、「私は勝ちましたし、正義も勝ちました」なんて言いたくてうずうずしているんだろうけど。
もう勝負なんて出来ないんだよ、死んだんだから。
例えば、自ら死を選ぶこと以外の勝つ方法を見つけ出せなかったような大馬鹿だ、なんて言われたって言い返すことすら無理なんだ。
悔しかったら化けて出てみろ。
エルは絶対にしないだろうけど。
化けて出たって、こっちの世界のものはどうせもう口に出来ないんだから。
重度の糖分依存症のエルに、禁煙ならぬ禁糖生活が続けられる筈がない。
「出て来たとしても、……死因って実は糖尿病だったとか言わないでよ…?」
「「良紀」」
「ん、今行く。」
呼ばれて振り返ればジェパンニの姿。
きっとニアに私を連れてくるように頼まれたのだろう。
「もう、いいのか?」
「もう少しワタリのところには居たかったけど、エルのとこはいいや。言うことも特にないし…」
「……そうか。」
「ニアの部屋で良いの?」
「いや、資料室に居るからそのまま来てくれと言っていた」
「また人をファイル代わりに使うつもりだね…ニアは……」
「俺には何とも言えないな…」
「確かに機密保持とか軽量化を考えるとうってつけとは言え……」
溜め息をつきながら白い少年が待つ部屋の扉に添えた手へ力を込めた。
「良紀、待ってましたよ」
022:膝を抱えて泣いていたあの日は今は遠く
「散々言ってくれましたね……」
「"言わなくてもわかってくれる"なんて、私が知らぬ間に仲良くなっていたよう
で…。エル、お久しぶりです」
「……ワタリか。元気そうだな」
「ええ、体が軽くまさに快調といったところです。」
「死んだんだな、私も。」
「そうですね…。しかし、意志は生きています。」
「ああ。……だが、私としては良紀には裏世界(このせかい)から離れて欲しかった…。」
「仕方がありませんよ、良紀の強情さは筋金入りですから。……それに彼女はも
う"篭の鳥"ではありません。強く…なりました。」
「仕方がない、か。それもそうだな」
「では納得したところで、お茶にしませんか?」
「今日のケーキは?」
「見てからのお楽しみでも良いでしょう」
お題提供:追憶の苑様【切情100題】
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