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からまったまま解けずに<014>(参謀)



「……」
ソファに気配を覚えながらも椅子に身を沈め書類を処理し続ける。
いっこうに喋ろうとも動こうともせず、何等変化のないまま時間ばかりが流れていった。
埒があかぬまま、ついに今日の分の仕事を終える。

いつもこうだ。

何かあるとこうして一人で抱え込む。
誰にも、ましてや私などには間違っても打ち明けはしない。

以前問いただしてみたこともあったが頑として口を割ろうとはせず、真相は姿を見せなかった。




彼女がこうなってしまった以上、待つより仕様がないのだ。






「…いい」
「そうか」
差し出されたが拒まれ行き場を失ったマグカップは、とりあえず置かれたテーブルの上でなんだか無性に哀れに見える。
それを、相変わらずの無表情で眺めている顔に一瞬、辛苦の色が浮かんだ。

何を考えたかはわからない。
だが、不憫なカップをその手にとったことは紛れも無い事実だった。


ソファの空いている空間に腰掛けその様を見届ける。








本当のところ、彼女が何を恐れ、それ故、絶対に弱さを見せまいと躍起になっていることも知っている。

彼女自身が気付いているかどうかは測りかねるところであるが、それは私が在る限り、解消されることは無い恐怖。


此処にいるからこそ生まれる恐怖であり、此処にいるからこそ死なない恐怖。


そして、この場所に彼女を降ろし留めたのは紛れも無い私自身。








014:からまったまま解けずに



運命など信じていない。
例え、その糸の交差した箇所に彼女は囚われ、逃れようと抗うことで羽を傷つけられているのだとしても、私はその糸を外すことはしないだろう。

私が居なくては呼吸すら出来なくなるまで。



生憎、逃げ道なんて与えてやるほどお人よしではない。








全てが現実となるまであと僅か。






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