ブレイク:冷たい君とぬるま湯のような僕 ……カタン 「?」 自分だけがいるはずの部屋で何かが床に当たる音がした。 苦労して棚から抜き出したばかりの薄ぼけた資料の解読を中断して辺りを見渡すが、これといって特に変わったところも無い。 もし、これほどまでの資料や調査書らで構成された山が崩れれば面倒なことになるとだけは確実に言い切れる。 後片付けなどという究極に面倒なことをしたいという思考は、あいにく持ち合わせていない。 念のため棚の裏側も見ておこうと裏側へまわった。 ずっとずっと走ってた。 何も見えないのにひたすらどこかを目指してた そうだ、怖かったんだ。 全てが塊になって 立ち止まれば飲み込まれる気がした ――足が思うように上がらなくなった。 進んでいるのかもしれない 同じ場所でじだんだを踏んでいるのかもしれない ぐるぐる回ってるだけかもしれない 疑問を持てば持つほど足が重くなる ついには膝から崩れ落ちた ――飲み込まれる。 立ち上がろうとしても足どころか手も動かない 指一本ですら曲げられない すぐそこまで来ているのに恐怖感からどうしようもなくなる さらなる無に縋るように、堅く瞼を合わせた 「 」 押し潰されるような圧力が消えた直後、頭に直接響く嫌な音と地震の揺れかたによく似た振動。 「…ッ」 耐え切れなくなった五感の全てが、意識を受け取る対象を見失った。 「……良紀?」 「つゥ゛…うッ」 棚の影に居たのは良紀だった。 机に突っ伏している恰好から、調べ物をしている最中に寝てしまっようだが、酷くうなされている。 眉間に皺をよせ、堅く閉められた手には爪が深く食い込んで、紅く細い痕が見れた。 どうしてだかはわからないけれど、その様子に頭の中が白くなっていって手に力が入らなくなる。 やっとの思いで良紀を机から引きはがし、そのまま強く揺らすと「……ッ」と何かに耐えているような様子を見せた後、うっすらと瞼が開いた。 ただ写しているだけの水晶体には恐怖が染み込んでいて、見えてゆくのに比例して動揺が沈んでいった。 沈んだ動揺が底にたどり着き馴染む。 「……」 「……」 「……」 「……」 「…チッ」 「ハイ?」 パシという音が聞こえたと思ったら手の中が無性に淋しく涼しくなった。 「……ンな時間にこんなとこで何してんの?」 「ワタシですか?」 「今日の昼間は何かと忙しかったモノですから、予定シてたトコまで終わってなかったんデスよ」 「ということで『残業』というやつでス」 無言を貫くその後ろ姿に、「大丈夫?」と、本当は声をかけるべきなのだろうけど、立ち入ってはいけない領域のように感じられてしかたがない。 「ココ使わせてもらいマスネ」 わずかにだが首が縦に動いたのを了承ととり、良紀の向かい側に紙の束を下ろす。 立ち入れないのなら出て来るのを待とうと考えられるようになったのはここ最近で、実行に移すのは初めてのことだ。 岩戸を無理にこじ開ければきっと、アマテラスは外に馴染む間もなく、次は海の底の貝の殻へ潜ってしまう……… ただひたすらに待つことしか出来ない。 なんというもどかしさ 011:冷たい君とぬるま湯のような僕 (目を開けたらブレイクがいて安心したなんて絶対なにかの間違いだ) 彼女が背を向けてた理由を知ることが出来るのは、また後の話。 お題提供:追憶の苑様【切情100題】 お題に添えてない自覚はあります。 ってか、ホントBASARAサイト…なのにね、orz *←→# [戻る] |