ブレイク:鏡越しの恋心、どうか美しいままでいて
「ねぇブレイク、人はきっとタイムリミットがあるからこそ何かをしようとあがけるんだよね」
「アナタがそんな哲学者みたいな事言うなんて、雨の代わりに飴でも降るんじゃないですカ?」
「ブレイクなら、雨が降ったって驚く前に喜ぶから意味無いでしょ。
…だってさ、終わりが見えもしない距離を全力で走り抜けって言われても、やる気起きないじゃん」
「確かにソレはあながち間違いではないでしょうが、中には走れる人もいるかもしれませんヨ?」
「それなら、少なくとも私は、走れる側の人間じゃあないなぁ。寧ろ目の前に迫りでもしないかぎり無理だろうし……」
この会話の数日後――…
彼女は消息を絶った。
いつも最低でも3日に1度は顔を出している彼女が―オズとアリスが加わってからは尚更頻繁にちょっかいをかけに来ていた―2週間も音信不通になる事など考えにくいことだった。
それに、来ていないときでも、その行動の派手さから、1日に1度は必ずその武勇伝が風にのって、嫌でも聞かざるをえなかったのだから、ここまで何も無いというのはありえないと言い切っても良いくらいのことだ。
――ガチャ
「ただいまー、今日も一段と麗しいですねお姉さま…ってあれ?」
「ああ、オズ君か…。
おかえり。そして、彼女なら相変わらず居ませんよ」
「おい、ピエロ。"いない"というのはどういうことだ」
「私(ワタシ)自身、聞きたいくらいデス」
「嘘をつくな、いつもお前にだけは何かしら言ってから仕事に行くだろう」
「そんなことは無いですよー?たまたまここに私がいることが多いだけで、もしかしたらお嬢様のほうが多いかもシレマセン」
「うーん、シャロンちゃんも知らないって言ってたしなぁ……あとは、レイブンとか?」
「俺が知ってるわけないだろ」
「それにしても……なんか変な感じだよね」
「あいつが居ないと物足りないというか、…つまらんな」
「アリスかっわいー、寂しいんだ?」
「なっ……!!黙れ!、下僕の分際がッ」
「アリスが可愛いからしょうがないんだよ」
「 」
じゃれあい始めたオズ達の姿に、なぜか罪悪感を感じ部屋を後にした――…‥
何の気配もない自室に『イナイ』ということを再認識してしまった。
それと同時に、いないんだなぁと思ってしまう自分自身に驚く。
いつのまにか彼女は、パンドラの為に、ただ、利用すべき対象ではなくなってしまっていたみたいだ。
代えなどいくらでもあるチェスの駒ならいっそ楽だというのに。
「今更遅いですよ、ねェ…?」
外と室内の明るさの差から鏡となりかけた窓に軽く触れ、情けない顔も見えぬよう額をつける。
「あなたがいないことがこんなにも虚しいことだと気付いたって、あなたはもういないんですから」
きっともう戻れはしないだろう
戻れたとしても彼女を引き止められはしないだろう
だからせめて
008:鏡越しの恋心、どうか美しいままでいて
その気になれば連れ戻すことなんて簡単なはずなのに、行動をおこせないのは、
拒絶されることをどこかで恐れているからかもしれない。
お題提供:追憶の苑様【切情100題】
拍手の相手が予想外過ぎる。……毎度ながら。
もうホント、そのうち黄蛙とか出てくるから(←
*←→#
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