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腐るほど愛してる <063>


「良紀ちゃん、ありがとう」
大好きな彼の、大好きな笑顔を見たというのに私はちっとも幸せじゃなかった。



あれは、いつのことだったか。随分と昔のことだったような気もする。何の因果かこの世界に引きずり込まれた私は一人ぼっちで膝を抱え怯えていた。回りは木ばかりが生い茂っているせいで薄暗く、そのうえ湿っぽい。

私は駅のホームにいるはずだった。佐助と一緒に乗った電車からホームへと足を下ろしたはずだった。(佐助は運動神経が無駄に良いくせに努力家だからこうやって一緒に帰れる日は限られる。とはいえ、私のほうが先に降りちゃうけど。佐助が降りる駅はもう2つ先。)

訳の解らない状況に、もう泣いてしまおうと思ったときだ。
佐助が現れた。一つ下の後輩、幸村くんと一緒に。
佐助は迷彩柄の見たことのないポンチョみたいな服でよくわからないフェイスペイントをしてて、幸村くんに至っては風邪をひきやしないかと心配したくなるような恰好だった。
しかし、いくら意味不明な容貌でも佐助は佐助だし、幸村くんは幸村くんだ。こんな見知らぬところで知り合い……それも、あー…なんというか…、その、所謂付き合ってる関係とでもいうか…、一般の人よりは圧倒的に付き合いの深い佐助と、私も結構仲の良い幸村くんがいてくれるのは凄く助かる。そう思ってその名を呼びかけたときだった。

「ねぇ、お嬢ちゃん。どうして俺様達のナマエ、知ってるのかなぁ?」

その時向けられた殺気と武器に(後に教えてもらったところ、クナイというそうだ)私は彼等は私の知り合いとは似て非なる者だということを悟った。



その場は結局幸村くん…じゃなかった、幸村さんが佐助さんを諌めてくれたばかりか、自分でも信じられない身の上の私を「女子を放り出すなど武士が廃る!」と幸村さんの屋敷に置いてくれた。

ちなみにこの呼び方については、最初はやっぱり馴れ馴れしくしてはいけないと思って真田様なんて呼んでみたけど「様と呼ばれる程仰々しい身ではござらぬ。某は良紀殿とそのような壁を作りたくはない、どうか幸村と呼んではくれぬか」と押し切られ今に至る。
流石に呼び捨てはまずい。相手はオトノサマだ。彼(か)の純情少年、幸村くんじゃない。(幸村さんの言葉に一瞬でもときめいてしまったのは秘密だ。幸村くんと同じ顔してるのに幸村さんのほうがいくらか大人っぽい気が、する)

そして問題の佐助、さん。
最初は当然警戒されてたけどなんだかんだしてるうちに打ち解けることができた。(話すと長いから割愛させてもらおう。とにかく、かつての佐助さんの笑顔は怖かった。目が笑ってなかったもん)
そして、今では世間話の他に任務先でのちょっとした話までしてもらえるようになったのだ。

そうしているうちにわかったことがいくつかある。佐助さんはきっとかすがさんっていう女の人が好きだってこと。かすがさんの話をするときの佐助さんはいつもよりずっとキラキラ輝いてて、今日も無視されちゃってという言葉に安心する自分に嫌悪しつつ「大丈夫です、きっと。かすがさんだって佐助さんのこと本当に嫌ってる訳じゃないと思います!」なんて根拠の無い気休めを吐く。それでも佐助さんは冒頭のように笑うのだ。

佐助さんは佐助とは違う。

理解してるつもりだけど受け入れることは難しくて、私の思考回路は使い物にならなくなってしまった。


「佐助さんはかすがさんのこと、本当に好きなんですね」

「……良紀ちゃん?」

「私、佐助さんとかすがさんがうまくいくよう一生懸命応援しますから!」

「ねぇ、良紀ちゃん」

「大丈夫です!安心してください!私こうみえても友達の手伝い結構してたんでそういうのは得意ですから!」

「良紀ちゃん!!」

空気が震える。佐助さんが怒鳴ったのは初めてだった。

「良紀ちゃん。なんか勘違いしてるようだけど、かすがは同郷で俺様の妹分だったの。だから淋しいなぁってことで好きとはいっても良紀ちゃんが思っているようなのじゃないよ。それに――、」

それに?そのあとを促すように同じ言葉をなぞれば佐助さんに閉じ込められる。佐助さんは決して隆々とした体つきではないけどやっぱり男の人といったところだろうか、しっかりと腕で抱き込められては逃げることは考えるだけ無駄だった。

「それに、俺様が好きなのは良紀ちゃんだし。」

「佐助さん?」

「あーもう、言わないつもりだったんだからね。言ったって良紀ちゃん困らせるだけだってわかってたし。でも予定変更。好きな子に泣かれて黙ってられる程、俺様も大人じゃあないってこと!」



063:腐るほど愛してる



(私たちは魂で恋をしているのかもしれない)
(だって佐助さんと佐助は違うけど)
(どちらもこんなに愛おしい)





「ごめんなさい、大好きです」
「なんでそこで謝るの?」
「佐助と佐助さんの違いなんてたいしたことなかったです」
「……?」







御題提供:追憶の苑様【切情100題】


[戦国BASARA:猿飛佐助*現代→戦国*佐助おち]








い、いかがでしたでしょうか!
前回の佐助さんが余りに腹黒かったので今回はピュアな佐助さんを目指し……って物事には限度ってものがありますよね…。
まぁ、個人的には黒くない佐助さんも好きなのですが!



リクして下さったお嬢様、これまでこのサイトに足を運んでくださったあなたに捧げます。






20090202



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