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空が落ちても海が干上がっても <051>


「あ…あの……すいません、薬箱――」

都合良く、目前を歩いていた女中さんに声をかけた。
姿勢良くスタスタと歩く彼女はなかなかの和服美人だ。

スタスタスタスタ


小気味よい音が途切れる気配はない。


スタスタスタスタスタスタスタスタスタスタスタスタスタスタスタスタ


「……行っちゃった…。」


一度、確かに目があったし表情がわったから、私に気付いてないなんてことはないだろう。

ずいぶんとまぁ、……なんというかあからさまだ。


別に、私だっていたくて此処にいるわけじゃないのに。帰れるもんなら帰ってしまいたい。
学校だってずっと行ってないし、友達にもあってない。当然だけど家族はおろか、ペットの九官鳥にだって会ってない。
せっかく、覚えた言葉も2つ増えたところだったのに。今はもう教える楽しみも聞く楽しみもなにもない。

今の私とあちらを繋げる――繋がっていたと証明するものは、1つの鞄と制服だけ。
――あまりに頼りない。


「どうしよ……これ、」

はけ口のない不安の代わりとでもいうような鮮血は止まるつもりもりもないらしい。






「はぁああ……つかれたぁぁー」


某も!と着いてこようとした旦那を黙らせるのは毎度ながら大仕事だ。
「どこの人間かもわからない、得体がしれないんだから危ないでしょ」なーんて言われて大人しくするなんてまだまだ旦那も子供だよね。やんなっちゃう。ま、旦那は好きだよ。俺様が持ってないのを全部持ってる旦那。人を殺めてもキレイな旦那。それだから俺様は、旦那に着いていけるんだ。だって、半端な光だったらきっと俺様は旦那を憎み羨み、最悪殺しちゃってたもんね。
だから旦那は今のままでいい。
けど、菓子が切れると大騒ぎするのはどうしたもんか。
十九にもなって菓子の一つや二つ自分でどうにかしろっての。



「――あの……」

噂をすればなんとやら。良紀ちゃんみーつけた。やっぱり無視されちゃってるよ、ハハッ
いくら良紀ちゃんだって話しかける相手が悪かったね。あの女中は中でも特にどぎつい集団のよりによって頭みたいな子だもん。そりゃー無理に決まってるよねぇ。


「………良紀ちやん?」
「あ……、佐助さ…「それ、血だよね?」」
「うわー…いや、その……」

良紀ちゃんが良紀ちゃんの世界から持って来た『鞄』に入ってた『じゃーじ』とかいう服。良紀ちゃんは体を動かすときいつもこれに着替えてるんだけど――っと、これは今関係ないね。
ともかく、そのじゃーじの紺がさらに黒くなってるとこを指差すと、バツが悪そうに吃る良紀ちゃんはなんて素直なんだろう。


「落ちたの?」

葉っぱやら小枝やらで小さな擦り傷を沢山作ってるとこみるとそうとしか思えないけど。
流石に言い逃れ出来ないってわかってるのか、小さく躊躇いがちに頷いた良紀ちゃんは凄く可愛い。

「あれ……。」

良紀ちゃんの指を目で追った先には、小さな毛玉

「――猫?」
「降りれなくなっちゃったみたいで…」

自分に集まる視線に気付いたからか気の抜けた声で、ナァと一鳴きした。

「良紀ちゃんって実はうっかりさんでしょ」
「は……?」
「俺様呼べばすーぐ終わることでしょーってコト」

面をくらったような顔だって可愛い。

「それは駄目!です!」
「なんで?」
「……だって、私に近いとこにいると佐助さんまで――「佐助」」
「……?さ、すけ…さん?」
「だから、佐助でいいって」
「むり…です…」
「さーすーけー」
「いーやーでーすー」
「………あ、そう。それじゃ良いのね。俺様なら猫だって『ちょちょい』っと助けられるし、その怪我だって簡単に手当出来るのに?ふーん、いいんだ?」
「そんな……!」
「あーかわいそ、良紀ちゃん!まだ嫁入り前なのにおっきな傷遺しちゃうなんてー」
「さ……け…」
「んー?どうしたの良紀ちゃん?」
「さ…すけっ!」

顔を真っ赤にして少し詰まり気味に呼ばれた名前は、今までのどんなものよりずっと長く頭で反響して
たった2つ
たかが2つの音が減っただけなのに、冬から春になった瞬間みたいに体が一気に暖かくなって
『芽吹き』なんて、俺様には関係ないもんだと思ってたのに。


「佐助……?」
「あ、ああゴメンゴメン。せっかく言ってもらったんだから俺様も約束、守んなくちゃね」

かるーく地面を蹴って手を伸ばせば、呆気ないくらい簡単に目的は達成された。
俺様からしてみればこの程度のこと。そのために良紀ちゃんは女の子なのに血だらけになった。そう考えるとなんてくだらない。

「ほら、そこに腰掛けて」
「え?」
「良紀ちゃんの足。止血して傷遺らないように手当てしてあげるから。」
「い、いいです!私なんか自業自得ですから!」
「じゃあ、貧血になるのをわかってるのに、そんな良紀ちゃんを俺様が見なかったフリをしなきゃいけないわけ?ヤだよ、そんなの。」

少し言葉を強めると、今度こそ完全に良紀ちゃんの抵抗は無くなった。それなら、最初から素直に俺様の言う通りにしてくれればよかったのに。


「うっわぁ……」

表面で乾き始めた血のせいでパリパリとした感触に堪えて、裾を捲くる。全くもって布らしくない。切っちゃえば楽なんだけど、それはあえて選ばなかった。ある女の子の赤みを帯びた瞳に影がおちてる時があるのを知っているから。あんなの見たくない。今あの子を支えて繋いでいるのは、残念なことに俺様――じゃなくて、僅かばかりの自身の持ち物。彼女の本来の世界から持ち込まれたもの。

「ねぇ、良紀ちゃん」

おそらく薬が染みるのだろう。眉を少し寄せてうっすらと涙を浮かべる姿はなかなかに煽情的というか、なんというか……、なに考えてんだろ、俺様は。

「俺様が側にいるからさ、……ううん。俺様が良紀ちゃんを一人にしないから、良紀ちゃんも俺様を一人にしないでってお願い。聞いてくれるかな。」

“待ってる人”“戻ってくる場所”が欲しいんだよね。
もちろん。この言葉も忘れない。
我ながら、なんて狡い。良紀ちゃんから選択肢を奪ったのは俺様だってのに。
ねぇ、良紀ちゃん。
答は初めから解ってるけど、聞いてみたかったんだ。


これは、ただの証明。




耳を染めて小さく頷いてくれただけで言葉はいらないから。



051:空が落ちても海が干上がっても


俺が君を守るから
君は俺だけを見てくれればいい


御題提供:追憶の苑様【切情100題】


[戦国BASARA:猿飛佐助*切→激甘*嫌われ主]






……………………………すいません。私的には劇的に甘いのですが…。多分社会的には需要が薄いような……。
依存関係って凄く甘くないですか…?
え?違う?……そうですか……。
いっそ、一から書き直しでも辞さない覚悟ですけど…ね!


あ、で、でも!ガラスのハートなので、中傷はしないでやってください…。








リクして下さったお嬢様、これまでこのサイトに足を運んでくださったあなたに捧げます。






20081205



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