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ブレイク:春は遠いまま <054>(req)


「相変わらずツレないデスネ」

ちょろちょろと私の回りに現れては消える神出鬼没かつ迷惑千万なこの男の名はザークシーズ=ブレイク。信じられない、信じたくない事実だがやつは私の上司だ。

「じゃまです。邪魔。」
「ヒドイじゃナイですか、未来の旦那様にむかって」
「……。」

蹴り飛ばしてしまえればどんなに楽になるだろうか。
あー、うっとうしい。

「“あー、欝陶しい!”ナンテ考えてるんでショ?」
「……エクスクラメーションマークは付けて無いですよ」
「クスッ、――当たらずとも遠からずでしたカ」
「……私の仕事が終わらないと困るのは貴方だと思いますが…」
「良紀サンから受け取る物なら迷惑だって何だって嬉しいデスよ」

あげく、こうやって人をからかってくるんだからタチが悪い。


「良紀はワタシが嫌いですか?」
「……なんですかいきなり」
「いいから答えてください」

しばらく黙っていたと思ったら突然投げ掛けられた、意図の見えない質問。
それに僅かに瞳を揺らした良紀をブレイクが見逃すわけもなく、はぐらかすことは許さないとばかりに言葉をつめた。

「わたし、は……」

喉が渇く。
砂漠に落とされたらこんな感じだろうか。
内側の膜がくっつくようで、ゴクリと唾を飲み込む音が嫌に生々しかった。

「わたしは…「イイです」
「……え…」
「わかってます。無理しなくてもイイですよ」

影の落ちた隻眼は初めて見る。

「…ちが…」
「本当は良紀が「違います!」
「確かに、上司としての貴方は大っ嫌いですよ!けど、……けれど、ザークシーズ=ブレイクという人は嫌いなんかじゃないんです!そりゃ……気に食わないとこは沢山ありますけど
仕事をサボって消えたり、人を簡単に利用したり、なんかいつも勝てる気しないし……喋り方だって人を馬鹿にしてるみたいで欝陶しくて嫌なやつだけど、それでも貴方はいつも!」

相手が無言なのをいいことにまくし立ててしまったが、今更止まることなんてできやしない。

「……いつも、シャロンを大切にしてくれてるじゃないですか…」

気ままに好き勝手やっているようで実は、自分の事は二の次にしてるのをこれまで見てきた。
私じゃシャロンを助けられなかったときだってブレイクはずっとシャロンの隣にいて。
本当は1番“ありがとう”言わなきゃいけないってわかっているけど、いざ顔を見るといつも言えなくて。

……目が熱くなってきた。
どうして私が泣くんだ。

……どうして、こんなに苦しいの?

「……良紀。」

自分の感情でいっぱいいっぱいで返事も出来ずにいたら、目の前が暗くなってブレイクの香りがどこかを掠めた。
あまい、あまい、飴のような

「ワタシが何て言おうとしてたと思ったんですか?」
「……“本当は私があなたを嫌ってる”って思ってるって…」
「そうですか……」

蚊の羽音にすら負けかねない私の声を拾い上げて、

「ま、ゼンッゼン違ってましたけど、良紀の口からワタシに対する事が聞けて良かったデス」

にやり。
頭の上でブレイクは笑った。

「……は?」

予想外の言葉は私のキャパシティを軽々超えていって、言葉が喉より先にでていかない。

「良紀がワタシを好きなコトなんて、ずうっと前から知ってマスよ
シャロンに嫉妬して、けれど彼女へ矛先を向けられなくてワタシ本人に向けてたんですよ、良紀は。ホラ、良紀って甘えたな割にはひど過ぎるほどに甘え下手じゃないですカ」
「そ、そんなこと!」
「ある、でしょう?」
「…な、いよ!そんなの!」
「ほら、そういうトコなんてまさにじゃないですか」

顔が、熱い。
穴があったら入ってしまいたいと言った人の気持ちがわかった気がする。

「今だってなんだかんだ言って大人しいデスし」
「〜〜っ離して!」
「イヤですよ、せっかく久しぶりに良紀を堪能してたんですから」
「た……っ“たんのう”って…!」
「おやァ?どうしたんですか、良紀?顔が赤いですケド……?」
「ば、バカ!」
「ヘェ、上司に対して“バカ”……。そうだ、良紀。せっかくですからあなたが想像したようなコト、シてあげます」
「いいいいらないっ!!」
「そんなに遠慮しなくて良いデスよ」

ニッコリと笑みを浮かべ離してくれない(そんな気はサラサラないだろう)ブレイクのペースに完全に呑まれてしまった私に、勝ち目なんて無かった。



054:春は遠いまま

(私があなたを大切に思っていると、あなたが気付いてくれるのはイツになることやら)
(シャロンは大切な人、)
(――あなたは、側に居てほしい、ひと)




御題提供:追憶の苑様【切情100題】





甘い……、でしょうか?
脱仄々を目指したのですが……ご希望がございましたら、どうぞおっしゃってくださいませ

[PandoraHearts:ザークシーズ=ブレイク*甘]





リクして下さったお嬢様、これまでこのサイトに足を運んでくださったあなたに捧げます。




20081011



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あきゅろす。
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