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その細い手首を手折りたいと、<044>



久しぶりに戻った薄暗い部屋。
その真ん中に居座るベットの上の膨らみに、確かな安堵を感じた。

近づいてみれば案の定、瞼はしっかり瞳を守っている。
なお、深い呼吸は熟睡を意味し、規則正しくリズムを刻む。


そうっと頬を撫でればゆるゆると身じろぎをし、少し丸みを帯びた体勢になったところでようやく落ち着いたようだった。


寝ている姿においても、彼女は記憶の中とどこも変わっていないことを再度痛感する。




「リ…ドル……」




譫言の中でまでリドルを捜しているのか。
けれど、彼女がどんなにリドルを探したって見つかるはずもないのを自分は知っている。
ヴォルデモートがリドルを殺したようなものだし、実際そうだ。

ホグワーツを卒業したあの日。
彼女を捜すことを諦めたあの日。
彼女と引換に父親への復讐を選んだあの日。
私は、リドルをこの世から消したのだ。

それを知ったいつか。
良紀は何を思い何を口にするのだろう。
気になる以上にそれは避けたい。

もし、良紀が壊れたらどうする?
ヴォルデモートではリドルの代わりにはなれないのだ。


涙の流れた冷たい頬を撫でる真似はしたくない。
鮮血には慣れているが、無色透明なそれとはずっと無縁だった。
ヴォルデモートでは尚更のこと。

リドルなら興味のない馬鹿な奴らが「好きだ」などと言いながら流すところを幾度と見たことがあった、琴線になんか掠りもしなかった。
(命乞いだとかといった、えらく生臭いものであればヴォルデモートでも無いことは無いともいえる。)


けれど、今の対象は良紀なのだ。

泣かれたら、責められたら、拒絶されたなら――




「おかえり、ヴォルデモートさん。それとも――リドル?」

「はっ、なにを言うかと思えば……、寝言は目を開いて語るものではない。思い出話のつもりか?」





いや、なんてことはない。

私は既に血に濡れすぎた。
こんな手ではどうせ触れられやしないんだから。

近づかなければいい。
至極、簡単なことだ。
それこそ、つまらないくらいに安易なこと。



「今はもう、思い出話じゃないよ。本人がいるのを過去とは呼ばないでしょ?」

「確かに……、私はかつてリドルだった。だが、この世界に良紀の知るリドルはいない。お前なら意味が理解できるだろう?」



放っておけば良い。

闇を行く自分には急所となり得る要素はいらない。
あの日に全て納得したはずだ。
思い出せ。
忘れるな。



「そうだとしても、リドルは完全に死んだ訳じゃない。」



あれから数えるのも面倒なほど時が過ぎた。
帝王を恐れさせるに足るものが、もはや消え去ってからも同じだけの時が去った。



「何故、そう言い切れる」


それでいて、なお。
いまさら何を畏れるか。



「私がこうして生きていること自体が理由になるし、ましてや保護――居候させてもらっている時点でかなりの要素にはなってるでしょう?
ヴォルデモートさんだけなら絶対に有り得ない。」



かなりの確信をもっているのだろう。
語尾を緩めることもなく証拠を並べ立てる。

確証のないことを言わない主義までも変わっていないらしい。



「それに最初にヴォルデモートさんに会ったとき、私の名を呼びましたよね?少なくてもその時は確実にリドルだったはず。」

「そして極めつけ。あのストラップを持っていたこと。これもやっぱりヴォルデモートさんにはありえないこと。――だって、私を知っているのはリドルのほうだから、ヴォルデモートさんが私に関わる理由はない。」

「――これでも何かある?」


「……私はリドルを消したつもりになってただけだったとでも…?」



……あるわけが、ない。
言葉の通り、リドルさえ消えていれば良紀を殺すはずだった。
“良紀”を見つけるたびに、それが目を覚ますのも本当は気付いてた。
そんなこともあったな、なんて少しずつ……良紀の姿と一緒に。


「うん。……リドルに話したいこと沢山あったんだよ」


そんな顔を見せるな。
これ以上リドルを起こすのは止めてくれ。
今更、あの日に戻れはしないんだから。
なのに、戻りたいだなんて無謀な思いを抱いてしまうだろう?



「いきなり消えてゴメンね」



その口を塞いでしまうことが出来たなら、どんなに楽になることか。




044:その細い手首を手折りたいと、




そんな考え
一瞬で消えてしまうのだけれど






御題提供:追憶の苑様【切情100題】




―…―…―
こないだの卿サイド

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090319

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