これは愛ではなく、ただの執着<078>(少佐)
「おっかえりー」
「……ヒュウガ、疲れたから部屋行かせて」
「やっぱ、良紀ちゃんって抱き心地良いわぁ」
「……もー……好きにしろ」
アクシデントにより予定よりも長期化してしまった任務の報告を済ませた帰り道、タチの悪いグラサンに捕まった。
アヤナミの所へ直行しなければよかったと後悔しても今更遅すぎる。
報告なんていつでもできるのに。
「怪我してなぁい?」
「……別に。」
これは嘘だ。
本当は右腕がそれなりに深い傷を負っている。
正直、ただこうしてるだけでも鈍く痛む程度には深い傷を。
しかし、返事をするのも説明をするのも億劫になってしまった。
「へぇ……ならいいんだけど」
納得したような言葉を吐いておきながらも、左手を背中から右腕へ滑らせる。
「――ッ」
表面を撫でられただけで鋭い針が刺さる感覚。
左手はそのまま軍服の袖から鉄の匂いを纏った包帯を器用に抜き取り、朱く濡れた箇所を空気に曝す。
そして、何を思ったか掴まれた手首から上に引き上げられた。
「っう……、ヒュウガ……止め……ッ」
「止めない」
痛みが生じるようわざとらしく舌を押し付けられながら朱を拭われる。
逃げようにも今までの任務で既に満身創痍な体ではどうしようもない。
せめての思いで、無事な左手で背中に爪を立てて抵抗を試みるも軍服の上からでは尚更効果は見られない。
「何で嘘ついたの?」
「あ…っ、つ……ッ」
痛覚に占拠された脳内では、言葉を選び神経に伝えることすら不可能な状況に、意味のある羅列は期待できないと悟ったのかようやく解放される。
「俺に嘘ついちゃダメでしょ」
確かに耳元から聞こえるはずの声は、安堵感と共に頭の中へ直接流れ込んで、いやがおうでも染み渡っていった。
「……君は俺の大事なオヒメサマなんだから」
そのとき、彼が――まさに背筋が凍るような――笑みを浮かべていたことに私は気付かなかった。
078:これは愛ではなく、ただの執着
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過去に日記に載せていたやつをサルベージかつ若干修正。
ホワイトデーに更新するような話じゃない
090314
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