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にっくきしゃっくり

今、現在進行形でこの私を困らせている奴。


ああもうやめてほしい苦しいったらないだろ。


なんて言ってみても、聞くわけがなく。


だって奴は。


「ひくっ!」


しゃっくりという、喉が痙攣を起こしているのであって人ではないのだから。


「なまえ大丈夫と?」


隣に座って珍しく読書をしていた千歳がふと顔をあげた。


今私達は、千歳の家にいる。


でも、千歳と私は恋仲とか、そういうんじゃない。


まったく同じ日に、まったく同じ学校に転校してきた。


言ってしまえば転校仲間(なんだそれ)。


ただ、それだけ。


それだけだけど、なんか妙に仲良くなった。


あれかな、やっぱ親近感湧くのかな同じ境遇なのって。


まあ、私の気持ちは、友達なんかじゃ止まってないんだけど。


はっきり言って、好きなんだ千歳のことが。


千歳の一言一言にドキッとして、心臓を鷲掴みにされてるような感じがして。


でもきっとそう感じてるのは私だけ。千歳はきっと私を、友達だと思ってる。


だから、この関係は崩したくない。


多分私は今、どの女の子よりも千歳に近くて。


千歳を感じられてる。


それだけで、いいと思えてた。から。


今日はお互い暇だったから遊ぼうということになり誰もいない千歳の家にお邪魔することになった。


今考えると、結構勇気あるなあ私。


好きな人と二人っきりで、しかも密室。心臓がはじけてもおかしくない。


まあでも、千歳が普段通りに接してくれてるから今のところは大丈夫。


にしても本当に珍しいな、千歳が本を読むなんて。


何の本読んでるのかな?純文学だったりするんだろうか。


えーっと何々…?


“将棋、相手の三手先を読むには”


…まあそんなところだろうとは思っていたけど。


そんなことより。


「あーうん、ひっく!!大丈夫だよ、っく!!ちょっと苦しいけどね」


ああもう本当にどうにかならないのかなーもう。


なんでこんな厄介な現象が存在するのかな。


そもそも、なぜ喉が痙攣なんか起こすんだ。理由もなしに痙攣起こすなんておかしいでしょ。


まあきっと理由はあるんだろうけど、迷惑極まりない。


自分の体のことだから仕方ないのだけど。


「んー、苦しそうたいねなまえ」


若干眉を下げて言う千歳。


「大丈夫だってばっくう!!」


「…あんまし大丈夫じゃなさそうやね」


そう言って持っていた本を置いて部屋を出ていこうとする千歳。


「千歳ー?ひっく」


「ちょっと待っとるたい」


私が呼ぶとふりかえり、ふ、と笑みをこぼして部屋を出ていく。


その微笑みに、落ち着いていた心臓がまた高鳴りだした。


本当に、やめてほしい。無意識って本当に厄介だよ…


そんなことよりも、どうしたのかな。あ、トイレかも。


いや、でもだったらトイレ行ってくるっていうよね普通。


「ひっく…あ゛ー、 とまんないし…」


んー、でも千歳は言いたくない人なのかもしれないよね…


とか、いろいろ考えてたら。


「なまえ」


「あ、千歳。」


多分二分もしないうちに戻ってきた。


やっぱりトイレだったんだろうか。でもいくら男の子のトイレが早いとはいえここまで早いものなのだろうか。


「んー…ひっくう!!」


「あはは、やっぱしまだ止まっとらんとね」


くすくすと笑って私の隣に座る。


肩と肩が触れ合いそうなほどに、近くて。


口から心臓が飛び出そうになるけど、ポーカーフェイス気取って。


「ひっどいなあーっく…こっちは結構苦しいっていうのに…っひく!」


「っはは、すまんばい。でもその苦しいんももうすぐ終わるとよ。」


「え?ひっく」


千歳の言った意味が分からなくて間抜けな声を出してしまう。


もうすぐ終わる、とは。どういう意味なのだろうか。


未来を見た、とか?


いや、それはありえない。そんなの出来たら超能力者だ。


千歳は超能力者なんかじゃない、はずだ。


でも。


「どうやって止めるの?..........っひくう!」


聞いてみても損はないはずだよね。


もし止めてもらえるのならそれでいいし。


「んーそうたいね……いくたい、俺!!」


「ひっく?」


なに、”いくたい、俺”って。いくのはきっと私の方だと思うんだけど。


一人で考えてたら、いつの間にか隣にいたはずの千歳が目の前にいて。


ぎゅっと、大きな手で手を握られて。


それだけのことなのに、ぼっと顔が一瞬にして熱くなる。


「ち、とせ?何っくして…」


「なまえ。」


いつになく真剣な目をした千歳の顔がすぐ近くにあって。


「ちと」


「好きたい」





すき?隙?鋤?梳き?す…


「好きって…ええ!? え、嘘うそそんなはずない!千歳が私を好きだなんて、そんな、え、だって千歳は私のこと!?」


もう驚きすぎて自分でも何言ってるのかわかんない。


そんな私を見て、千歳は。


「おーよかったばい、しゃっくり、止まったとね。」


「ふえ?あ、」


そっか、そうなんだ。


千歳は、私のしゃっくりを止めるために、言ったんだ。


私のことを好きだって。


「え、あ、そー、だね…ありがと千歳!」


深い傷を負った心を隠して笑顔でお礼を言うと。


「いーや、お安い御用ったい!」


そう言って、私の頭にぽん、と手をおいた。


ああ、もう。またそうやって優しくしてくれて。


自惚れちゃうじゃん、やめてよ千歳。


じわっと熱い何かがこみ上げてきて我慢できなくなって。


雫が頬をつたいそうになった、その瞬間。


「え、うあ!?」


頭に乗ってた千歳の手が私の顔を下へ向かせて。


「…なまえ。できれば、返事…聞かせて欲しか…」


いつもの明るい声じゃなくて、緊張した千歳の声が頭から降ってきて。


「返事?返事って、なんの返事? さっきのは冗談じゃなかったの?」


もう訳が分からない。


何が本当なのかもわかんなくて、さっきあふれ出しそうになった雫が頬をつたってて。


「冗談な訳なか。あれは俺の本心たい」


「うーっ…嘘だあーっ」


「嘘じゃなか。なまえは?俺んこと好いとう?」






ありがとうにっくきしゃっくり

(ち、千歳えー!!)(おうおう、なまえは泣き虫さんたいね)(大好きだよおおお)(っ!!!)(う、千歳?)(ほんなこつ嬉しかーっ!!!)(う゛っ!?ち、千歳、くるしっ!!!)

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前サイトよりー。
千歳は、さらっと告白すればいいと思う。
笑顔で。


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