[携帯モード] [URL送信]
ぬくもりテレパシー(RDG)
*レッドデータガール みゆみこ
*無自覚な両想い
*唐突に始まります



〜〜〜〜〜〜

「泉水子」


名前を呼ばれたような気がした。
返事をしようと後ろを振り返る、その途端に視界が真っ暗になる。唐突な出来事に硬直してしまった身体が、大きなぬくもりに優しく拘束される。耳に届くのは早鐘を打つ自身の心音と、更に異なる心音。追って追われて重なるように響くその音は、まるで1つのメロディを奏でているかのように思えた。


「さ、相楽くん…?」

「悪い。少しだけこのままで居させてくれないか?」


頬に当たるパリッとしたシャツの感覚とほんのり鼻をくすぐる洗剤の香りには覚えがあった。予想と頭の上から響いた静かなテノールの声も見事に一致した。ただ、その中にいつもと少し違う様子が混じっているような感じがして、気付けば泉水子は問い掛けに対して首を縦に振っていた。

泉水子にとって、男子と話すことは今でもあまり得意ではない。話すだけでも一大事なのに、触れ合うだなんてもっての他だった。しかし、自分は相楽深行に抱き締められているのだと理解した今このときを、不思議と不快だとは感じなかった。もちろん驚きはしたし、今もどうしたら良いか分からず動揺もしている。ただ、深行のぬくもりを拒もうという気は泉水子の心に沸いてこなかった。

自身より幾分も大きな腕に包まれるあたたかさ。耳を澄ませば息遣いが聞こえてくるほどの距離。頭から思い切り抱き込まれているため、泉水子の位置から深行の表情は見えない。しかし、もしかすると深行はとても辛いことを我慢して泣きそうな顔をしているのかもしれない。痛いくらいの抱擁を受けながら、泉水子は何となくそう感じていた。



「…あたたかいね」

「…あぁ」



もしも何かに苦しんでいるならば。悲しんでいるならば。幾らでもこのぬくもりを分けてあげたい。大丈夫だよと、一人じゃないのだと教えてあげたい。
少なくとも自分はすぐ傍にいるのだ。多少頼りなくとも、泉水子にだって深行のためにできることはある。その事をもっと強く伝えたくて、泉水子が恐る恐る手を伸ばす。小さな手のひらが大きな背に触れて、それから優しく包み込んだ。深行の身体は一瞬驚いたように震えたが、それきりますます泉水子の身体を抱え込んで離す気配がない。小さな身体は全く身動きが取れぬ状態となり、大人しくされるがままとなった。

触れられている部分が熱くて、心臓が早足に脈打って、胸が少し苦しくなる。その苦しみが息苦しさからくるものか、はたまた他の原因からくるものか。今の泉水子にもよくは分からなかった。ただ、触れ合って生まれたぬくもりは優しくてあたたかいから。せめてもう少しだけ――誰かに気付かれそうになるまでなら――このままの体勢でもいいかもしれない。深行の胸に控えめに頭を預けながら、泉水子はふとそんなことを考えていた。



ぬくもりテレパシー

(もっとこの温かさが伝わればいいのに)

END





ブログより再録SS。
4巻の宗田兄弟の話から派生したネタなんですが、まなみこのはずがうっかりみゆみこになっていました!不思議!!

[*前へ]

あきゅろす。
無料HPエムペ!