たくよーさん
山皐その二
昔からそうだった。
皐月はつらいことや嫌なことがあれば、すぐに自分の中に溜め込もうとする。
誰にも話さず、ひたすらじっと辛さを抱え込む。
鈍感な俺は彼女のそんな思いを汲み取れず、よくどうしていいのかわからなくなって四苦八苦していた。
それは、彼氏彼女の関係になってからも相変わらず。
皐月はあれでなかなか頑固なところがあるから、やはりなかなか辛さや悲しみを簡単には話してはくれない。
(せっかく隣にいるのに、俺じゃ頼りない…?)
俺らしくないマイナスの思考ばかりが頭の中をぐるぐるする。
皐月のことになると途端に臆病になる、自分でも情けないくらいに。
もっと頼ってほしいのに、空回りばかりが増える。
何を思って、何を抱えているのか、皐月の心がわからなくてやきもきする。
こんなとき、ふと思うのだ。
“彼女の好きと俺の好きは同じなのだろうか”と。
皐月の言葉を信じていない訳じゃない。
皐月がいい加減な気持ちで俺に接しているとも思っていない。
ただ、長かった片思い期間とあまり変わらない現状を考えると、二人の“好き”のベクトルの長さが少し違うのではないかと思うことがある。
俺の気持ちが強すぎやしないか、とか。
そのことが皐月の負担になってるんじゃないか、とか。
彼女に好かれている自信はあるが、愛されている自信がなかなか持てない。
大きくなっていく不安。
沈みかけた自らを奮い立たせるようにポツリ、気持ちが言葉となって一つ溢れた。
「俺は皐月が好きだよ」
「山…勇人くん?」
驚いたように、皐月が伏せていた顔をあげる。
俺の名を呼ぶ彼女の声に胸が高鳴る。
カチリと重なりはまった視線に想いを乗せる。
「きっと、皐月が思っている以上にもっとずっと俺は皐月が好きだ」
だから、どんな皐月だって受け入れられる。
弱い部分も全部含めて、皐月の気持ちを知りたい。
ほんの少しでいいから、俺を頼ってほしい。
そんな願いを込めて、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
そして言葉にして確信した。
結果を求めるだけが全てじゃない。
皐月の気持ちがわからないなら、今は俺のありったけの気持ちを知ってもらえばいい。
この気持ちを受け取るも流すも彼女次第。
想いのベクトルに差があるなら、俺に出来るのはただ長さがある程度揃うまで待つことのみ。
時間はかかるかもしれないが、皐月ならきっとこの気持ちに気付いて誠実に返してくれる。
好かれているなら、焦る必要なんてない。
長期戦なら昔から得意分野だ。
一人脳内完結するとずいぶんスッキリするものなんだと思わず感心する。
心が軽くなって満たされた気分にすらなる。
モヤモヤが薄れた俺とは対照的に、ふと見た皐月の表情が次第に険しくなっていく。
ギョッとして目を見開けば更に不機嫌になる皐月の顔。
地雷踏んだか?とか、脳内完結がまずかったか?とか心が新たな不安に煽られる。
そんな動揺した俺に始めより更に不機嫌になった彼女が発した言葉は、以外にも予想斜め上のものだった。
「私のほうが好き」
「は…?」
「絶対に私の方が勇人くんのこと好きだもん!!」
「張り合おうとしてる!?」
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